本研究において作成したクオリティコントロール用のpooledヒト1000人血清を用いながら、実検体の測定・分析を進めた。また、データ品質確認のためにこのQC検体に加え、他のpooled検体、及び市販されているヒト血液検体や米国より購入したNIST SRM1950も実検体と同時に測定し続けていくことにより、測定後のデータにおいてQCを用いた補正及びその補正の確認を検証できる系を確立した。 昨年度に引き続き同重体タグを用いた多検体同時分析系をこれまでに確立した三連四重極型質量分析計によるワイドターゲットMRM測定から、スループットとデータの安定性の向上を目的としてアンターゲットタイプの測定系―具体的には四重極質量分析計によるスキャンやイオンモビリティー分離を搭載した精密質量分析計などでの測定-に変更することの利点を検討した。感度と測定速度や測定安定性及びデータ解析スループットにおいては現状のMRM測定の方に利があると考えられたため、MRM測定を採用しつつLC条件と多検体前処理の効率化を行うことでスループットの向上を成し遂げた。 初年度に構築したイオンモビリティー分離とTOF型質量分析計を活用した3分間測定では1検体あたりのデータが非常に重くなるため、数百を超える検体セットでのデータ処理に課題があることが昨年度に明らかとなった。今年度は、共同研究者の協力を得て新しいソフトウェアの構築によりこの課題を克服した。CCS値と精密質量を効率的に利用して、数千を超える検体データ処理が可能となった。臨床検査値情報を豊富に持った4000検体の血液検体セットを測定しこのソフトウェアを利用して作成したリピドームデータと血液検査値情報を解析したところ、様々な脂質が特定の臨床検査値と特定のパターンを持って相関することが明確になり本手法の有用性が確認できた。
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