研究実績の概要 |
糖尿病性腎臓病は進行性の腎障害であり、日本における透析導入原因の第一位である。日本では推定約1,000 万人もの糖尿病患者がおり、その約40%で糖尿病性腎臓病を発症している。この研究は糖尿病性腎臓病に対する新たな治癒法の開発のために行われている。ペプチドをN 末端側より2 アミノ酸ずつ加水分解する酵素ジペプチジルペプチダーゼIII(DPPIII)は、主として、アミノ酸残基数3-10 程度の比較的小さな特定のペプチドを分解する。糖尿病では血中で様々な種類の断片化ペプチドが増加しているとの報告があるために申請者は、レプチン受容体遺伝子点変異により2型糖尿病を発症するdb/db マウスに、精製リコンビナントDPPIII を投与しその効果を検証した。DPPIII投与はコントロールの生理食塩水投与と比較して、腎機能障害の指標である尿中アルブミン量を、血糖値に変動なく有意に抑制できた。血糖低下作用のないDPPIII が、血糖非依存的に腎保護作用を発揮する機序を検討するため、糖尿病で増加し、DPPIII で分解される血中ペプチドを網羅的なペプチドーム解析で探索したところ、9 アミノ酸からなるペプチド(候補ペプチド)を見出すことができた。選択的反応モニタリング(質量分析法の一種)を用いて、正常マウス、db/db マウスそれぞれの血漿中に存在する候補ペプチドの量(濃度)を測定したところ、糖尿病時における候補ペプチド量が確かにdb/db マウスにおいて増加していることが確認できた。またDPPIII投与によって候補ペプチドが分解されることをin vitro、in vivoにおいて同定し、この候補ペプチドがアナフィラトキシン作用を有しており血管内皮細胞に対して透過性を上昇させることを解明した。
|