本研究では、マクロファージにおけるIL4-STAT6-Arg1シグナル系をモデルとして、温度依存的な炎症終息経路(温度依存的NO産生、細胞内代謝調節)の分子実態を明らかにすることを目的とした。低温環境において、IL4刺激時にリン酸化STAT6とArg1発現が著明に増加すること、IL4-STAT6-Arg1シグナル系の制御因子としてCbl-bに注目し、Cbl-bの発現制御機構の解析とIL4-STAT6-Arg1シグナル活性化の責任分子の同定を行った。IL4刺激時のCbl-b遺伝子発現の増加が、野生型マウスのマクロファージに対するSTAT6阻害薬処理、そしてSTAT6KOマウスのマクロファージ細胞において抑制されることをqPCRによって明らかにした。このことは、温度依存的かつCbl-bはSTAT6依存的に発現が制御されることを示した。一方で、マクロファージにおいてRNAiによるCbl-bのノックダウンを行ったところ、Cbl-bのノックダウンによってIL4刺激時のArg1の発現抑制はみられなかった。温度可変型代謝解析システムを用いて、低温環境がマクロファージ細胞内代謝に与える影響をリアルタイムに計測した。低温環境により通常呼吸量、最大呼吸量、プロトンリーク等の細胞内代謝の低下を明らかにした。明らかになった細胞内代謝の変化を、ミトコンドリア脱共役剤を用いて介入し、Arg1とCbl-bの発現を調べ、IL4-STAT6-Arg1系活性化における細胞内代謝の役割を検証したところ、有意な関連は認められなかった。しかし、Ca2+キレーターによってIL4刺激時のArg1の発現は抑制された。IL4-STAT6-Arg1シグナル系の制御因子として新たにCa2+シグナリングを同定した。温度依存的な炎症終息経路の分子実態を明らかにするために、Cbl-bに加えより包括的な解析の必要性を示唆した。
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