研究課題
研究代表者らはこれまで、タンパク質の選択的分解除去装置であるプロテアソーム複合体の脂質修飾が、長期培養され「老化」した酵母で減少し、プロテアソームの細胞内局在変化に伴う種々のストレス関連タンパク質の蓄積を引き起こし、酵母の高温・薬剤などへのストレス耐性を減少させることを明らかにしてきた。これらの知見から研究代表者は、老化細胞におけるプロテアソームの活性低下機構においても、脂質修飾を含む種々の翻訳後修飾の変化が関与すると予測し、集団倍加数 (PDL)の異なる2種類のヒト正常二倍体繊維芽細胞株, 胎児肺由来, TIG-1 (PDL=20: 若齢モデル細胞・PDL=60: 老化モデル細胞)から抽出したタンパク質を用いたユビキチン化タンパク質のウエスタンブロット解析および質量分析を行った。既報の通り、TIG-1-60細胞では細胞体積の増加に伴い一細胞あたりのタンパク質量の増加が見られ、さらにウエスタンブロット解析ではユビキチン化タンパク質シグナルの増加が見られた。また質量分析により、TIG-1-20細胞およびTIG-1-60細胞からそれぞれ450種類前後のタンパク質が検出された。TIG-1-20細胞特異的タンパク質群には、シグナル伝達や細胞の運動、核などに含まれるものが多いのに対し、TIG-1-60細胞特異的タンパク質群には、増殖を停止した線維芽細胞において発現増加することが知られているGAS6を含む老化関連タンパク質の他、ユビキチン化関連酵素やプロテアソームサブユニットのタンパク質、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患に関わるタンパク質などが含まれていた。
2: おおむね順調に進展している
老化モデル細胞と若齢モデル細胞を用いたウエスタンブロット解析および質量分析により、老化モデル細胞で特異的に蓄積する、既知の老化関連タンパク質を含む多数のユビキチン化タンパク質を明らかにすることができた。
上記の解析で老化モデル細胞における蓄積が確認されたタンパク質のうちいくつかを選び、ウエスタンブロットや細胞免疫染色によるタンパク質蓄積の確認を行う。また、老化モデル細胞と若齢モデル細胞からプロテアソーム複合体を精製し、SDS-PAGEと質量分析法により、プロテアソームの各サブユニットにおけるリン酸化や脂質修飾などによる翻訳後修飾パターンの違いを調べると共に、蛍光標識ペプチドを用いたペプチダーゼ活性測定などにより、修飾変化とプロテアソームの活性変化の関連を調べる。
試薬購入費用を想定よりも安く抑えられたこと、学会のオンライン開催により出張費が不要となったことなどから、次年度使用額が生じた。次年度以降の試薬購入等に充てていく予定である。
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すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Journal of Proteomics
巻: 15 ページ: 1043
10.1016/j.jprot.2021.104319
NPJ Microgravity
巻: 7 ページ: 34
10.1038/s41526-021-00164-6