本研究は、新規小胞体ストレス応答因子として見出されたCIDE-Aの遺伝子発現がAMPK活性制御を介して小胞体ストレス下の甲状腺濾胞細胞生存あるいは細胞死に関与することを証明し、本経路を介した小胞体ストレス関連疾患の治療法開発を目的としている。 CIDE-A - AMPK経路の詳細を調査する中で、Foxo1発現の抑制がCIDE-A発現を抑制することが明らかとなり、CIDE-A発現調節経路の上流にFoxo1が存在する可能性が示された。一方で、CIDE-A - AMPKの関連は脂肪細胞においては既報だが、甲状腺濾胞細胞においては技術的な問題からCIDE-A発現が直接的にAMPK活性を抑制するという再現性のある結果は得られていない。 また、ミトコンドリア機能改善作用が報告されている糖尿病治療薬であるイメグリミンと、小胞体シャペロン蛋白であるimmunoglobulin heavy chain-binding protein(BiP)の活性化薬であるBIX(BiP Inducer X)が、いずれも小胞体ストレス下におけるCIDE-A遺伝子発現増加を抑制し、細胞死を抑制する可能性が示された。 更に小胞体ストレス関連疾患治療薬としての応用を期待して、イメグリミンの甲状腺濾胞細胞における作用を検証したところ、同薬剤は甲状腺濾胞細胞の主要な合成蛋白であるサイログロブリンのmRNA発現量と蛋白合成・分泌量を共に増加させる一方で、同細胞を特徴づけるサイロペルオキシダーゼ(TPO)及びPAX8のmRNA発現を抑制することが明らかとなった。すなわち、イメグリミンによる甲状腺濾胞細胞の保護作用は同細胞の蛋白合成・分泌機能改善と脱分化に関与しているものと推測された。
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