研究課題
生体内の様々なRNA分子は、厳密に合成と分解の調節を受けており、その異常が様々な疾患を引き起こす。CLP1は、RNAの5'末端をリン酸化するRNAリン酸化酵素の一つである。RNAの5'末端のリン酸化の生理的意義は未だ不明であるが、リン酸化活性を失ったCLP1を持つマウスは、異常tRNA断片が蓄積し、神経変性症状を示すことが知られており、実際に橋小脳低形成症患者において、CLP1の変異が見つかっている。本研究では、CLP1の機能不全がどのようにして神経変性を引き起こすのか明らかにすると共に、RNAリン酸化の生理的意義を明らかにすることを目的としている。これまでに、CRISPR/Cas9システムを用いてヒトのCLP1変異を持つノックインマウスの作製および解析を行い、変異マウスがヒト患者と同様の神経症状を示し、CLP1のR140H変異が橋小脳低形成症の原因となっていること、CLP1R140H変異マウスが橋小脳低形成症の良い動物モデルになることを明らかにしてきた。当該年度は、橋小脳低形成症において神経細胞障害を抑制する薬剤を探索するシステムを立ち上げるために、マウスモデルに加えてゼブラフィッシュモデルの作製を行った。ゼブラフィッシュclp1遺伝子の開始コドン付近のゲノム配列を標的としたgRNAを設計し、CRISPR/Cas9システムを用いてclp1変異ゼブラフィッシュを作製し、F1世代を得た。また、培養細胞を用いて異常tRNA断片によって生じる細胞毒性を解析したところ、tRNA断片によってアポトーシスが誘導されていることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
CLP1の変異モデルマウスを作製および解析し国際誌に発表済みであり、さらに変異モデルゼブラフィッシュの作製、培養細胞を用いた解析も順調に進んでいるため、「概ね順調に進展している」と判断した。
今後、clp1変異ゼブラフィッシュのF1世代の掛け合わせによりホモ接合変異体を得て特に脳神経系の異常について解析を行う。さらに治療戦略構築のための薬剤スクリーニングの系を立ち上げる。また、CLP1の生理的役割を明らかにするために、培養細胞を用いて生化学的実験を進めていく予定である。
すべて 2023 2022 その他
すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (9件) (うち国際学会 2件)
Biochem Biophys Res Commun.
巻: 624 ページ: 95-101
10.1016/j.bbrc.2022.07.070
Genes Cells.
巻: 27 ページ: 254-265
10.1111/gtc.12924