研究課題
近年、NF-kBシグナルや細胞死の新たな制御因子として直鎖状ユビキチン鎖が注目を集めている。申請者の所属研究室では、直鎖状ユビキチン鎖を産生する唯一のユビキチンリガーゼ(E3)複合体としてLUBACを同定し、炎症応答の制御、各種関連疾患の発症に至る一連の研究を世界に先駆けて報告して来た。本研究では、申請者が独自に見出した新規LUBAC関連因子(OTUD1、DZIP3)に着目し、それらがLUBACと協調してNF-kBシグナルや細胞死を制御する分子基盤を解明すると共に、その破綻がどのような疾患の発症に繋がるかを明らかにする。本年度、各種細胞株におけるOTUD1遺伝子ノックアウトが、炎症性サイトカインによるNF-kB活性化を亢進させる事を見出した。また、OTUD1-KO細胞ではRIP1非依存なアポトーシス(RIA)やネクロプトーシスが亢進する一方、RIP1依存なアポトーシス(RDA)は抑制された。さらに、OTUD1は酸化ストレス応答の制御因子として知られるKEAP1と結合し、KEAP1のK63ユビキチン鎖を切断する可能性を見出した。実際、Otud1-KO細胞では、各種刺激に伴う活性酸素(ROS)の産生が亢進し、これらはROSスカベンジャーの添加によりキャンセルされた。同様の細胞死やROS産生の亢進は、Otud1-KOマウスにおける急性肝炎モデルやDSS誘導性大腸炎モデルにおいても認められた。現在、これらの結果を纏めて論文を投稿中である。
2: おおむね順調に進展している
LUBAC関連因子として新たに見出した脱ユビキチン化酵素であるOTUD1について、NF-kBや細胞死、酸化ストレス制御など多様な生理機能を、細胞及び動物モデルで明らかにすることができた。さらに、OTUD1の機能不全がマウス敗血症モデル、急性肝炎モデル、大腸炎モデルに対する脆弱性を引き起こすなど、具体的な関連疾患を見出すことが出来た。これらの結果から、本研究は概ね順調に進展していると考える。
OTUD1やDZIP3によるNF-kBシグナルや細胞死制御の分子基盤を解明すると共に、その破綻がどのような疾患の発症に繋がるかを明らかにするため、引き続き解析を進める。また、新たに見出しているユビキチン修飾因子についても、NF-kBシグナルや細胞死制御の可能性を探索することで、より大きな研究へと展開していく。
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すべて 雑誌論文 (5件) (うち査読あり 5件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (8件) (うち招待講演 3件)
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