スキルス胃癌はびまん性浸潤、間質増生、腹膜播種をきたす予後不良の難治癌である。家族性スキルス胃癌はE-cadherinの変異により生じるが、変異保有者の一部は口唇口蓋裂を併発する。我々はスキルス胃癌の進展に関わる新規分子PLEKHA5を見出したが、驚くべきことにこの分子は遺伝性口唇口蓋裂の原因遺伝子であることが報告された。従ってPLEKHA5は細胞間接着を制御し、その機能異常が両疾患の発症に関与すると推察された。本研究では、正常上皮の細胞間接着とスキルス胃癌におけるPLEKHA5の分子機能の解明を目的とした。まずPLEKHA5の細胞内局在を解析した結果、PLEKHA5はE-cadherinと共に細胞間接着部位に局在することが分かった。その局在機構を解析したところ、受容体チロシンキナーゼ下流で起こるチロシンリン酸化、N末端部に存在するWWドメインとPHドメインが細胞間接着部位への局在に重要であった。さらにTandem affinity purification法によりPLEKHA5の結合タンパク質を網羅的に探索した結果、PLEKHA5はE-cadherinを含む様々な細胞間接着タンパク質やシグナル伝達タンパク質と結合することが明らかになった。一方PLEKHA5のPHドメインについて結合脂質の探索を行った所、ホスファチジルセリンと強く結合することが明らかになった。ホスファチジルセリンは細胞内輸送で重要な働きをしているが、実際にPLEKHA5のノックダウンによりスキルス胃癌細胞において細胞内輸送の異常が起こること確認された。以上の結果から、PLEKHA5は細胞間接着とシグナル伝達に関わるアダプター分子であり、細胞間接着が喪失したがん細胞においては細胞内輸送に関与する可能性が示唆された。
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