研究課題/領域番号 |
21K06882
|
研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
牛久 哲男 東京大学, 大学院医学系研究科(医学部), 教授 (60376415)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 胃癌 / 胎児形質 |
研究実績の概要 |
胃癌外科切除検体185例のRNA シークエンスデータを基にしたクラスター解析結果から胎児精巣抗原を高発現するクラスターを同定し、胎児形質胃癌として臨床病理因子、遺伝子変異の特徴、ならびに治療標的分子の探索を行った。胎児形質胃癌は組織学的に胎児消化管上皮類似癌や肝様腺癌の組織型を呈する例が多く、悪性度が高いことが確認された。遺伝子変異の特徴としては高頻度のTP53遺伝子変異と染色体不安定性を特徴とすることがわかったが、この群に特異的と言える遺伝子変異は認められなかったことから、エピゲノム変化により特徴的な遺伝子発現プロファイルを生じている可能性が示唆された。体細胞変異シグネチャーの解析では、二本鎖切断修復異常と関連した変異シグネチャーが胎児形質胃癌で比較的高頻度にみられたが、実際の二本鎖切断修復に関係する遺伝子異常や発現異常は乏しいことから、発癌への関与は限定的と考えられた。胎児形質胃癌で特徴的に高発現している遺伝子から複数の治療標的候補を同定し、胃癌細胞株を用いて阻害薬投与実験を行った。このうちいくつかの阻害薬は胎児形質胃癌細胞株で増殖抑制効果が認められ、胎児形質胃癌に対する新たな治療戦略として期待され、引き続き検討を行っている。また、胎児形質胃癌の一部では、細胞分化の可塑性が高まり、間葉系細胞への分化が出現して癌肉腫となること発見した。癌肉腫の一部は胎児形質胃癌から発生するという、癌肉腫の成り立ちについての新たな知見として報告を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ゲノムプロファイルが分かっている胃癌症例群185例から胎児形質胃癌群を抽出し、そのゲノム異常の特徴を解析することができ、またいくつかの新規治療標的を同定することができた。注目した治療標的に対する阻害薬の有効性評価はまた完了していないため、引き続き解析を進める必要がある。また通常型胃癌から胎児形質胃癌に変化するメカニズムについても解析を継続しているが、メカニズム解明につながる十分な結果は得られておらず、この点についてはやや進捗が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
胎児形質胃癌に特徴的な高発現遺伝子群として抽出された遺伝子の中から、特に有力な発癌関連遺伝子に着目して、その機能解析や治療標的としての可能性の検証を行う。全エクソーム解析では胎児形質胃癌に特異的な遺伝子異常は見出されなかったが、一部の症例について全ゲノムシーケンス解析を行い、ゲノム異常についてさらに検討を行う。胎児形質胃癌は通常型分化型胃癌から発生すると考えられるため、そのメカニズム解明を目指して細胞株やオルガノイドを用いた解析を重点的に実施する。癌の進展過程で悪性度が高まる現象である胎児形質転換の分子機構を明らかにすることで、新たな創薬ポイントや治療戦略の開発に資することが期待される。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ渦中のため学会参加がオンラインになるなどの理由で、旅費などが予想を下回った。
|