これまでの共同研究で実施されたRNA-seqデータが得られている大規模胃癌コホートから、胎児形質関連遺伝子発現の亢進している一群を抽出した。この群で特徴的に高発現しているがん関連遺伝子についてタンパクレベルでの発現を確認するため、同コホートの180例の胃癌について免疫組織化学的染色によるタンパク発現の評価を行った。 胎児形質胃癌で特徴的に高発現している遺伝子として、治療薬の存在する受容体型チロシンキナーゼの一つを見出し、タンパク発現レベルでも同様の結果が認められた。胃癌細胞株(胎児形質胃癌由来細胞株および非胎児形質胃癌由来細胞株)を用いた阻害薬投与実験では、胎児形質胃癌由来細胞株で濃度依存的に有意な増殖抑制効果が示された。胎児形質胃癌の免疫微小環境の特徴や免疫チェックポイント阻害薬の効果については現時点ではほとんど報告がなく明らかになっていなかったが、胎児形質胃癌においては、PD-L1発現やHLA-classI分子の発現消失など、胃癌で一般的にみられる免疫回避機構が高頻度に用いられており、さらに独自の免疫回避機構として胎児形質獲得に関連した免疫回避分子を特異的に高発現していることを見出した。これらの成果については、現在それぞれ論文投稿中である。 さらに、代表的な胎児形質型胃癌の臨床検体の凍結組織を用いて、ATAC-seqを用いたエピゲノム解析、および全ゲノムシーケンス解析を実施し、現在解析を進めている。これらの解析を通して、胎児形質胃癌の発生・進展過程におけるゲノム異常、エピゲノム異常、遺伝子発現プロファイルの変化を統合的に理解し、どのような因子が高悪性度形質に関与しているのか、その分子メカニズムの解明に向けてさらに解析を進めたい。またこれらの解析を通して、胎児形質胃癌に有効な治療戦略の確立に向けた基盤データを提供し、また新たな治療介入ポイントの探索を行っている。
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