研究課題
DUSP4は、がん遺伝子であるMAPキナーゼを不活化する脱リン酸化酵素として機能する。さまざまな癌腫でDUSP4の発現低下とそれに伴うMAPキナーゼの恒常的活性化が認められる。私たちは、膵癌前駆病変が浸潤性膵癌に進展する際にDUSP4の欠失と発現低下が高頻度に認められることを報告した。さらに大腸癌が深部浸潤する過程で、DUSP4が発現低下してMAPキナーゼが活性化することを報告した。一方、癌腫によってはDUSP4が高発現しているものもあり、癌細胞の増殖能亢進や抗がん剤抵抗性、上皮間葉転換などに関わることが報告されている。私たちも大腸癌の特定の亜型では、DUSP4が高発現していること、DUSP4の発現抑制により増殖能が低下することを報告した。以上の知見に基づきDUSP4ががん遺伝子として機能する際の分子メカニズムを解明するため、近位依存性ビオチン標識 (BioID)法による新規基質の同定を試みた。今年度はまずDUSP4とビオチンリガーゼ(BirA)の融合タンパクを発現するプラスミドを構築した。次にそれをDUSP4高発現大腸癌細胞株HCT116に導入して、DUSP4-BirA融合タンパク安定発現細胞株を2株樹立した。これらの細胞株にビオチンを添加し、20時間後の細胞抽出液を電気泳動して、HRP標識ストレプトアビジンでビオチン化タンパクを確認すると、複数のバンドが検出された。目的とするDUSP4の新規基質は、これらのDUSP4-BirA融合タンパクによってビオチン化されたタンパクの中に存在することが強く示唆される。
2: おおむね順調に進展している
今年度はこれまでに施行した予備実験の結果を検証するために、新たに発現プラスミドを構築して、大腸癌細胞株に導入し、安定発現細胞株を得た。さらに樹立した細胞株を用いた実験によりDUSP4の新規基質候補タンパクの存在を確認できた。
今後は当初の計画通り、細胞抽出液からビオチン化タンパクをストレプトアビジンビーズで抽出する。得られた抽出液を二次元電気泳動する。ゲルから単一スポットを回収してアミノ酸分析にてタンパクを同定する。これらの中からDUSP4の新たな基質を検索する。抽出された新規基質候補分子については、まずDUSP4高発現細胞株における新規基質の発現レベルを定量的Real-time PCR法およびWestern blot法にて解析する。次に、siRNAを用いたノックダウン法あるいはレンチウイルスベクターを用いた強制発現法により、新規基質の発現レベルを変動させ、増殖能(MTS法)や浸潤能(Boyden chamber法)、生存能(アポトーシス解析)、細胞周期(FACS解析)への影響を調べる。さらに、新規基質が担うシグナルパスウェイを同定するために、網羅的発現解析を施行して新規基質の発現変動に伴って発現レベルが変化する遺伝子群を抽出する。得られた発現プロファイルをパスウェイ解析データベース(Ingenuity Pathway Analysis, Ingenuity Systems)に連携して、シグナルパスウェイの概要を得る。さらに、細胞タンパク液を抽出し、リン酸化タンパクアレイを用いて活性化するパスウェイを確認する。
新型コロナウイルス感染に関連する製造・流通の遅延により、年度後半に購入した試薬や器具類の入荷が年度内に間に合わなかったため次年度使用額が生じた。試薬等は、次年度予算分として入荷するため、研究の進捗に影響はない。
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