研究実績の概要 |
膀胱癌はほとんどが非浸潤性尿路上皮癌であるが、再発あるいは同時性・異時性多発のリスクも有しているため、浸潤性尿路上皮癌の発生や再発段階での浸潤能の獲得は予後に大きく関連する。本研究では、発生段階での分化を制御するとされている転写因子Sox9とDNA修復や細胞周期を維持するのに重要なp53に着目し、TUR-Btにて切除された膀胱癌組織を50例選択し、膀胱癌組織中の発現を検討した。その結果、どちらも表在性膀胱癌(pTa)では発現が低いのに対し、浸潤性膀胱癌(pT1以深)と高異型度膀胱癌である上皮内癌(pTis)ではどちらも高発現しており、特にSOX9は深達度に応じて発現量が増加していることが確認できた。 膀胱癌細胞株を用いた研究から、SOX9を標的とするmicroRNAのうち、miR-138が膀胱癌細胞の増殖及び浸潤能に関わっていることが明らかとなった。一方で、SOX9は浸潤能には関わっているものの、細胞増殖能にはあまり関与していなかった。そこで、新たにin silicoでmiR-138の推定標的分子を検索し、その中でも膀胱癌の増殖、浸潤シグナルに関わる分子として、EIF4EP1、FOXC1及びRARAが見出された。これらの分子について、膀胱癌細胞株T24, UMUC2, UMUC3を用いてMTSアッセイを行い、細胞増殖能を検討したところ、それぞれの分子のsiRNAによる発現抑制により、細胞増殖能が低下した。マトリゲルアッセイによる浸潤能も同時に低下していた。miR-138、EIF4EP1及びFOXC1は異型度の高い上皮内癌に高発現するcytokeratin-20の発現を抑制することが明らかとなり、CK20の発現を低下させることで浸潤能を抑制することも推測された。
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