研究課題/領域番号 |
21K06923
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
吉澤 明彦 京都大学, 医学研究科, 准教授 (80378645)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 深層学習 / 肺癌 / 術前補助療法 / 病理組織学的効果判定 |
研究実績の概要 |
本検討は,術前補助療法(ネオアジュバント療法:以下NAC)後切除された非小細胞肺癌症例の治療効果判定に関して,デジタル化された切除病理組織材料(Whole slide image: WSI化)を用い,人工知能(特に深層学習)モデルを構築,その標準化をめざすことを目標としている。 まずは基礎データとなるNAC後非小細胞肺癌切除症例の抽出,対象症例のガラススライド収集後,病理学的再評価およびデジタル化(WSI化)を行い,パイロットスタディとして単一症例での人工知能モデル(CNNモデル)の構築のためのアノテーション作業(3クラス:非腫瘍成分,腫瘍床,残存腫瘍成分),およびネットワークとしてResNet50を用い評価を行った。このパイロットスタディでは単一倍率画像からなるパッチ画像を基盤に検討したが,感度はそれぞれ0.92, 0.86, 0.82と比較的良好な結果が得られた。この症例では,病理医が残存腫瘍比率を60%としたのに対し,構築されたモデルは65.7%の残存腫瘍があったことが示された。この検討で,学習データの構築の妥当性が確認できたため,次に,複数症例を用いた学習データの構築を行った。ここでは対象症例であるWSI-90枚から約157万枚のパッチを切り出した。これらを学習データ,評価データ,テストデータに分け3分割交差試験を行った。ネットワークには事前学習済みのResNet50を用いた。結果はそれぞれAccuracy 0.842,mPrecision 0.816,mRecall 0.812,F1 0.814,mIoU 0.688であった。それぞれの症例を見てみると,腫瘍床の判定として背景肺の腫瘍に関係しない線維化部位を予想していることが分かった。CNNモデルの改善には,クラスの追加や全体の学習データを増やす必要性が考えられる。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画に従って,以下のように進めた。 1)対象症例の抽出とデジタル化:京大病院に非小細胞肺癌でNAC後切除された症例を抽出(2012年~2019年55例,2005年~2011年38例,全93例),各症例のHE染色から病理学的再評価,および代表ガラススライドを選択,同代表切片をデジタル化(WSI化)を行った。 2)学習データの生成とCNNモデルの構築(パイロットスタディ):CNNモデルの構築のため,単一症例を用い,1)非腫瘍成分,2)腫瘍床,3)残存腫瘍成分をOpenSlide(ASAP)ソフトウェアを用いてクラス分けを行った(アノテーション作業)。次に,アノテーション画像を単一倍率(40倍)のパッチ画像(256 x 256)に分割した(約90万パッチ)。ResNet50のネットワークを用い,検討したところ,感度はそれぞれ0.92, 0.86, 0.82と比較的良好な結果が得られ,学習データ構築過程の妥当性が示された。 3)対象症例を用いたCNNモデルでの検討:複数症例を用いた学習データの構築(アノテーション作業)を行った。ここではWSI 90枚から約157万枚のパッチ(256 x 256)を切り出したが,このときの倍率は事前学習で用いた40xだけでなく,20x, 10xも取り入れた。これらを学習データ,評価データ,テストデータに分け3分割交差試験を行った。モデルには事前学習済みのResNet50を用いた。評価項目はAccuracy,mPrecision,mRecall,F1,mIoUとした。結果,全体として,Accuracy 0.842,mPrecision 0.816,mRecall 0.812,F1 0.814,mIoU 0.688であった。 以上,概ね当該年度の検討は順調にすすんでいる。
|
今後の研究の推進方策 |
対象症例(WSI:90枚)を用い,事前学習したCNNモデルでの検討では,ある程度の精度が示された。しかしながら目標とする精度0.9には及ばず,不十分な結果であった。その原因として,それぞれの症例を見てみると,腫瘍床の判定として背景肺の腫瘍に関係しない線維化部位を比較的多くの対象で予想していることが分かった。改善には,クラスの追加(腫瘍に関係しない線維化巣の学習)あるいは全体の学習データを増やすことなどが考えられる。ただ,これらはパッチベースでの結果であって,個々の症例ごとの病理医の判定(ゴールドスタンダード)とCNNモデルの判定結果からκ値を算出し比較することで,この程度のCNNモデルでも病理医の判定と差が無いかを検証する必要がある。また,申請者らが開発したAdaptive Weighting Multi-Field-of-View CNN(Ad-WMFV-CNN)法を用いた検討も対象症例のアノテーション作業が終了した段階で検討を計画する。 一方で,現在はHE染色での病理医の判定がゴールドスタンダードとなっているが,免疫染色(上皮性マーカー,間葉系マーカー)を利用したCNNモデルはHE染色を基盤としたモデルより精度が向上するか,対比することも予定する。 また,対象症例を予後の観点から2群に分け,病理医の判定と,CNNモデルでの判定,いずれが有用かを示す検討も予定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度参加を予定していた学会につき,新型コロナ肺炎蔓延の関係で参加を見送ったため次年度に繰り越しとした。本年度,学会参加に使用する予定である。
|