研究課題/領域番号 |
21K06939
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研究機関 | 国立研究開発法人国立がん研究センター |
研究代表者 |
桑田 健 国立研究開発法人国立がん研究センター, 東病院, 部門長 (00327321)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 胃癌 / ヒト患者由来ゼノグラフト / 細胞株 / 薬剤感受性 |
研究実績の概要 |
腫瘍内不均一性を利用した薬剤感受性機構の解明を目指し、ヒト胃癌手術検体もしくは腹水より樹立したヒト胃癌細胞株のうち、組織・患者由来ゼノグラフト(PDX)・細胞株の3種間での比較が可能な21株について、腫瘍内不均一性および薬剤感受性についての検討を継続した。 昨年度の検討では、マイクロサテライト不安定性を示す胃癌(MSI胃癌)はマイクロサテライト安定性を示す胃癌(MSS胃癌)に比して予後良好ながら薬剤に対する感受性が低い可能性が示唆された。このため、それぞれの性格を示す細胞株の増殖能について検討した。MSI胃癌細胞株にはMSS胃癌細胞株に対して高い増殖能を示すものが含まれたが、MSI/MSSいずれの胃癌細胞とも細胞株間での増殖能のばらつきが大きく、両者の間で明らかな統計学的な有意差は得られなかった。 薬剤感受性について、殺細胞性薬剤投与の有無による細胞数を比較するアッセイ系を用いた検討では、一部のMSI胃癌細胞株において白金製剤に対し薬剤耐性を示す可能性が示唆されたものの、MSI胃癌細胞とMSS胃癌細胞全体として明らかな差は認められなかった。MSIの 原因となるMLH1遺伝子消失についてDNAメチル化による影響を比較したが、メチル化の有無についても薬剤感受性との明らかな相関は同定されなかった。これまでの検討で用いた解析系は、一定の増殖能を有しかつ接着性の性格を示す細胞株のみしか評価できなかったため、浮遊系細胞細胞を含めた評価が可能なアッセイ系についての検討も開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マイクロサテライト不安定性(MSI)およびマイクロサテライト安定性(MSS)それぞれを示す胃癌細胞株を用いて薬剤感受性に対する検討を実施、一部のMSI胃癌細胞株について薬剤抵抗性を示すことが示唆できている。この細胞株を用いて今後薬剤抵抗性に関わる二次的遺伝子変化を同定する方針である。一方で、検討したMSI胃癌細胞株全てが同一薬剤に対して同じ傾向を示してはおらず、個々の細胞にすでに生じている遺伝子変異が一次的な薬剤感受性・抵抗性に影響している可能性も考慮される。また解析系の特徴から、接着性かつ増殖能の高い胃癌細胞株が選択的に検討された可能性も考慮し、浮遊系細胞や増殖能の低い細胞株についても薬剤による影響を測定可能な増殖能を指標としたアッセイ系の利用についても検討を開始した。 現在胃癌に対する分子標的治療としては抗HER2抗体薬に加え抗CLDN18抗体が承認されており、また免疫チェックポイント阻害薬も一次治療として使用可能となっている。免疫チェックポイント阻害薬については本研究で行う解析系では評価困難であるが、関連分子の発現を指標にした評価の可能性についても検討する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度には、特定薬剤の感受性・抵抗性に関わる遺伝子変異を同定し、その分子機構をさらに抑制する胃癌治療開発への応用を目指す。これまでに得られたデータをまとめ、一般化できる形での発表・論文化を進める。現在の胃癌治療で用いられる細胞表面分子を対象とした抗体薬、並びに免疫チェックポイント阻害薬について本研究で用いた解析系の有効性を考察するとともに、DNAメチル化などのエピジェネティックな変化や今回ヒト由来ゼノグラフトおよび細胞株で高頻度に認められたシグナル伝達経路を標的とした小分子化合物の有効性についても考察する。特にKRAS-MAPK経路については、浮遊系細胞での遺伝子変異・増幅が高頻度に認められたため、今年度より検討を始めた解析系でのデータも含めた解析データのまとめを行い、学会・学術誌での発表を目指す。 本研究で得られた薬剤耐性機構を標的とした新たな治療法開発についても考察し、本研究に続く薬剤開発研究の提案へとつなげる。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究実施のため予定していた物品の購入を行う予定であったが、国内在庫がないため年度内の納品が困難と判断、次年度に持ち越しとなった。予定していた物品は次年度に購入し、研究を遂行する。
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