研究実績の概要 |
がん組織は自律的かつ過剰な増殖を示すヘテロな細胞集団である。その中には、腫瘍形成に中心的な役割を持ち、治療抵抗性の高いがん幹細胞が存在し、がんの発生や再発、転移に関与すると考えられている。しかしながら、がん幹細胞の増殖動態は、ほとんど解明されていない。本研究では、高輝度化学発光タンパク質Nano-Lantern(NL)を用いて、幹細胞や増殖マーカーの発現を生細胞で可視化し、その動態解析を行うこと、およびがん幹細胞を単離し、オミックス解析を行うことで、がん幹細胞の誘導や維持に重要な分子やシグナル系を同定することを試みた。初めに、細胞増殖マーカーであるKi67プロモーター下でRed-NL、Green-NLを同時に発現する細胞株を樹立した。血清飢餓や接触阻止により細胞増殖を止めたときに、内在性Ki67と同様に、Ki67p-NLの発現が減少することを確認し、また増殖を再活性化したときの発現回復を確認した。幹細胞マーカー(NANOG, SOX2, OCT4, SALL4)のプロモーター下にNLを組み込んだレポーターも作製し、安定発現株の樹立を行った。結果として、スフェア培養条件下において、1から数パーセントの細胞が陽性となった。現在、増殖の遅いがん幹細胞の単離を行い、RNAseqなどのオミックス解析を行っている。また、TGF-βシグナルもがん幹細胞の維持に重要なシグナルとして知られていることから、その標的遺伝子であり、腫瘍形成に重要な機能を示すTMEPAIに着目し、がん幹細胞との関連を調べたところ、スフェア形成下で誘導されるSOX2等の幹細胞マーカーの発現が、TMEPAIノックアウト細胞では減弱することを見出し、それらはTMEPAIのPYモチーフを介した細胞内シグナル制御によって調節されていることを明らかにした。
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