研究課題/領域番号 |
21K06946
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
青木 耕史 福井大学, 学術研究院医学系部門, 教授 (40402862)
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研究分担者 |
堀 一也 福井大学, 学術研究院医学系部門, 助教 (50749059)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 癌幹細胞 / 大腸癌 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、癌幹細胞性の遺伝子発現制御機構の解明を目的としている。これまでの実験から、腸管上皮細胞の分化に不可欠なホメオボックス蛋白質CDX2が、RNA polymerase II-associated factor 1 (PAF1) 複合体(PAF1c)を介して、癌幹細胞性関連遺伝子の転写初期の保留状態を制御することで、大腸癌の癌幹細胞性を遺伝子発現レベルで抑制することが分かった。そこで、代表的な大腸癌細胞株であるLS174T細胞を用いてTetOff細胞を作成し、さらにドキシサイクリン依存性にPAF1に対する人工的なmicroRNA (amiRNA)を発現する細胞を作成した。この細胞をLS174T-TetOff-amiR-PAF1とする。これらの細胞では、ドキシサイクリン依存性にPAF1の発現が20%程度に抑制される。また、比較する細胞として、CTNNB1に対するamiRNAを発現する細胞を作成した。この細胞をLS174T-TetOff-amiR-CTNNB1とする。この細胞においても、CTNNB1の発現が、ドキシサイクリン依存性に20%程度以下に抑制される。これらの細胞を免疫不全マウスの皮下に移植し、飲水にドキシサイクリンを含むことで、amiRNAの発現を制御し、腫瘍の成長を経時的に調べた。その結果、PAF1の発現を抑制すると、腫瘍の成長が、コントロールの腫瘍に比べて、10%程度に抑制されることが分かった。CTNNB1を抑制した腫瘍の成長も抑制された。これらの腫瘍組織を組織学的に解析したところ、アルシアンブルーで陽性になる細胞が、PAF1のノックダウンにおいても、CTNNB1のノックダウンによっても顕著に増加することが分かった。これらの実験から、PAF1が大腸癌の癌幹細胞性の維持に不可欠な因子であり、PAF1の機能の低下は、癌幹細胞性の低下を促すことが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定とした実験を順調に行うことができた。また、実験結果も得ることができたので、研究目的は順調に達成できたといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は、大腸癌の癌幹細胞性の可塑性の制御におけるPAF1複合体の役割の解析を行う。近年の研究より、分化した細胞から癌幹細胞が出現することが報告されており、癌幹細胞性の可塑性の制御機構の理解は、大きな課題となっている。これまでの解析により、PAF1を抑制した場合、CTNNB1を抑制したときと比べてLGR5発現量の低下の程度は、弱いが、CD44v9などの癌幹細胞性の腫瘍マーカーの発現低下の程度は大きく、また、CD44v9の低下が持続することがわかった。これらのことから、PAF1の抑制による癌幹細胞性の低下は、解除され難い可能性がある。そこで、PAF1複合体の大腸癌の癌幹細胞性の可塑性における役割を、以下の実験により明らかにする。TetOff-amiR-PAF1細胞で、PAF1を7日間程度抑制した後にPAF1の抑制を解除して、7日間培養した後に遺伝子発現を解析する。次に、TetOff-amiR-PAF1細胞で、PAF1を7日間程度抑制した後にPAF1の抑制を解除して、7日間程度培養した後に免疫不全マウスの皮下に移植することで造腫瘍能を調べる。また、TetOff-amiR-CTNNB1細胞でCTNNB1を抑制して、上記と同様の実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画よりも実験が順調にすすんだため、消耗品費を削減することができた。一方で、今年度は、より詳細な実験を行うために、繰り越した予算を消耗品費に充てる。
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