研究課題
本研究では大腸がんの転移促進機能が見出されていたNOTCH-DAB1-TRIOシグナル伝達経路の更なる機能解析を患者由来大腸がん幹細胞を用いて進めることで、臨床例での機序の解明と治療標的の同定を目的としていた。実験計画は次の(1)から(6)の順で進めた:(1) 大腸がん患者由来のがん幹細胞株ライブラリーの樹立。(2) 予後不良患者由来のがん幹細胞株の選択。(3) それらの大腸がん幹細胞のトランスクリプトーム解析。(4) 転移相関マーカー遺伝子群の同定。(5) 転移機能マーカー遺伝子群の同定。(6) 転移阻害薬の同定。上記(1)と(2)に関してはこれまでに所属研究室にて蓄積された臨床材料とそれに関わるデータを既に所有していたので、比較的短期間で終了した。「(3)のトランスクリプトーム解析」により、予後不良大腸がん患者由来のがん幹細胞の代表的な発現プロファイルが得られた。「(4) 転移相関マーカーの解析」では、大腸がん患者の全生存期間・無再発/無増悪生存期間・疾患特異的生存期間と負もしくは正の相関を示す予後マーカー遺伝子群が同定された。「(5) 転移機能マーカーの解析」では、トランスクリプトーム解析と担がんマウスの肝転移の表現型解析を組み合わせることで、4つの転移抑制遺伝子群を同定した。「(6) 転移阻害薬の同定」に関しては、(5)で同定した転移機能マーカーが酵素活性を持つものではなかったため、典型的なシグナル伝達を標的とした新規阻害薬は得られなかったが、異なる方面から転移阻害薬の候補は同定しており、今後はこの代替の阻害薬の解析を進める。また上記の解析でコントロールとして使用した正常大腸上皮幹細胞(NCESC)を一細胞発現解析により個々の細胞の遺伝子発現状態を調べたところ、NCESC群はおおよそ均一な細胞集団であることが確認された。
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