制御性T細胞(Treg)は、中枢神経系、皮膚、消化管、内臓脂肪組織などの非リンパ組織の恒常性と再生を促進することにより、組織耐性維持に不可欠な機能を果たすことが示されている。そして、これらの非リンパ組織Tregは、炎症性サイトカインなどの因子を介して、その場で組織損傷を感知することにより、組織修復を促進すると考えられている。さらに近年ではアルツハイマー病やパーキンソン病をはじめとする様々な神経疾患と免疫系の関連性が報告されているが、不明な点が多く残されている。本研究の目的は、脳炎症後に脳内浸潤する脳Tregの脳特異的遺伝子発現獲得メカニズムを解明し、脳内炎症性疾患の制御と脳組織修復を促すことである。そこで本研究では、まず脾臓とリンパ節から得られたナイーブTregが初代培養アストロサイトの存在下で活性化され、T細胞受容体刺激によって増殖されることを明らかにした。さらに、インターロイキン33とセロトニンを追加するとIL-33受容体およびセロトニン受容体7などの脳Tregで見られる発現の一部が誘導された。また、トランスクリプトーム解析より、同様の遺伝子発現パターンを示したことから、in vitroで脳Tregに近い誘導が可能であることが明らかとなった。さらに、これらの誘導において細胞間の接着性と非接着性をトランスウェルまたはアストロサイトコンディションメディウムを用いて解析したところ、これらの脳Tregへの誘導にはアストロサイトとの接着性が必要である事が示唆された。次に、脳梗塞モデルにin vitroで作製した脳Tregを移入すると脾臓やリンパ節Tregよりも脳内への浸潤が見られ、パーキンソン病および多発性硬化症モデルでも同様に脳内への浸潤と症状を改善させることが明らかとなった。これらの結果より、今後の脳Tregの理解と炎症性脳疾患の治療開発に貢献できる可能性が期待される。
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