胎児は父親由来の抗原を発現しているが、母体内は特定抗原に対する免疫反応が抑制されている(免疫寛容)ために胎児は攻撃を受けずに妊娠が維持される。妊娠期の免疫寛容は制御性T細胞や制御性NK細胞によってコントロールされているが、一方で母体を介した微生物感染に対する胎児の免疫担当細胞や免疫反応については不明である。 本研究では従来の樹状細胞や前駆細胞の機能を評価する実験に加えて、胎生期樹状細胞を除去できる遺伝子改変マウスを用いて同細胞を除去し、ウイルス感染モデルや合成核酸を投与し、その後の免疫反応や生後の行動異常や自閉症発症に寄与するかどうか評価する。 最終年度は、妊娠マウスに細菌感染を模したLPSあるいはウイルス感染を模したPoly(I:C)を投与して、胎生期樹状細胞の免疫関連遺伝子発現が変動するか否か、および炎症性サイトカインの産生量が変動するか否かを検討したが、一部の遺伝子はLPS刺激で上昇したもののPoly(I:C)刺激では変動しなかった。サイトカイン産生量は一部の炎症性サイトカインがLPS刺激で上昇しているのが確認されたが、Th17誘導に関与するサイトカインの上昇は見られなかった。ただ、in vitroの解析では刺激に対する免疫反応について成体期樹状細胞よりも顕著な違いが見られており、詳細な解析が必要である。また、胎生期樹状細胞が成体期樹状細胞と比較して機能的にどの程度類似しているかを明らかにするために、純化した胎生期及び成体期の樹状細胞を用いて次世代シーケンサーによる樹状細胞の発現を解析した。結果、胎生期樹状細胞には成体期樹状細胞と異なった発現パターンを示した。このことが母体内の中という特殊な環境の中での樹状細胞の役割だと示唆される。
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