研究課題
プロテアソームは、細胞内のタンパク質分解に関わるタンパク複合体であり、不要・不良なタンパク質の分解を行うことで細胞の恒常性の維持や細胞内シグナル伝達、さらにはMHCクラスIによる抗原提示など、様々な生命現象に関与している。プロテアソームサブユニットに生じた遺伝子変異により、自己炎症性疾患のひとつであるプロテアソーム関連自己炎症症候群を発症する。本研究では、自己炎症性疾患様の症状を呈する患者より見いだされた、プロテアソームβ1iサブユニット遺伝子(PSMB9)に生じたアミノ酸置換を伴うde novoのヘテロ変異がどのように疾患に関与しているのか解明するため、当該変異をマウスに導入し(KIマウス)解析を行っている。本研究では、免疫細胞分化におけるプロテアソームの機能的意義の探索を中心に行っている。これまでに、ヘテロおよびホモKIマウスでは野生型マウスと比較して、T細胞、B細胞、樹状細胞などが減少あるいは欠損することや、特に樹状細胞分化については当該変異によって細胞自身の異常により分化異常が引き起こされることが示唆されている。本年度は、特にホモKIマウスを含めて、造血幹細胞・前駆細胞上のCD48およびCD150の発現を検討して各分画の変化について解析するとともに、当該遺伝子変異が骨髄内の造血環境に与える影響を検討するため、X線照射したヘテロKIマウスをレシピエントとして野生型マウス由来骨髄細胞の移植を行った。しかしながら、予想外なことに、ヘテロKIマウスでは骨髄移植後6週以降頃から削痩を呈し、早期に死亡してしまうことが判明した。このことから、X線照射したヘテロKIマウスでは、移植した骨髄細胞が生着しにくい、あるいはX線に対する感受性が高い可能性が示唆された。
3: やや遅れている
ヘテロKIマウスをレシピエントとして用いて当該遺伝子変異が骨髄内造血環境に与える影響について検討を試みたが、骨髄移植後にヘテロKIマウスが削痩を呈し、当初予定しいたスケジュールでの解析ができていない。現在、移植方法や移植後の解析時期の再検討を含め、さらなる骨髄移植実験を進めている。また、一部行った前駆細胞のRNA-seqの解析を進めるとともに、さらなる遺伝子発現解析に向けたcell sortingなども進めている。これらの解析を通して、KIマウスが示す血液細胞分化に関する表現型がどのように生じるのか、その機序の解明が期待される。また、Psmb9欠損マウスでの解析も順次進めているところである。
骨髄移植については、移植後の解析スケジュールを短縮する、移植方法を変更するなど、対応を検討する。また、X線に対する感受性が高い可能性も考えられるため、X線照射前後で遺伝子修復に関わる分子の発現などについても検討を行う。さらに、引き続き造血前駆細胞などについてRNA-seq解析など遺伝子発現解析を行うことで、当該遺伝子変異により、どのような異常が生じているのか解析を進める。同時に、造血幹細胞や前駆細胞などの細胞表面分子の発現について、フローサイトメトリーなどを用いて、より詳細に検討する。さらに、皮膚炎など、各種疾患モデルの確立や予備的実験なども合わせて進める予定である。
学会がWEB開催になるなど、出張旅費に未使用が生じるとともに、次年度以降により多くのサンプルについて網羅的遺伝子発現解析を行うための予算の確保に務めた。網羅的遺伝子発現解析を充実させ、その結果に基づく解析を進める予定である。
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Proceedings of the National Academy of Sciences
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