研究課題/領域番号 |
21K06965
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
山本 浩平 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (50451927)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | がん / 治療戦略 / 脂質 / 細胞死 |
研究実績の概要 |
予備実験としてウシ胎児血清から脂質を除去した細胞培養液(脂質除去培地)を用いて種々の悪性リンパ腫細胞株の培養を行ったところ、脂質除去培地で72時間培養後、複数の悪性リンパ腫細胞株が死滅するという結果が得られた。この細胞死はフェロトーシス阻害剤やビタミンE添加、脂質の再添加により完全にキャンセルされた。さらに、この細胞死が起こる際、フェロトーシスのkey negative regulator である脂質抗酸化酵素GPX4(Yang et. al, 2014)がタンパクレベルで急激に減少する現象が確認されている。 脂質除去に伴うフェロトーシスがGPX4のタンパクレベルでの減少・枯渇によるものであるかを確かめるため、GPX4の過剰発現細胞株を作製し、脂質除去培地で培養したところ、コントロールの細胞にくらべ有意に細胞生存率の改善が認められた。さらに、脂質除去培地において酸化ストレス(ROS)の蓄積が生じることをフローサイトメトリーの系を用いて確認を行った。 細胞内に脂質を取り込むメカニズムとして、データベースリサーチにて悪性リンパ腫で発現の亢進が確認されるFABP5遺伝子に着目し、FABP5ノックアウト細胞を作製した。FABP5ノックアウト細胞ではコントロール細胞に比して細胞増殖がやや抑制される傾向がみられたが、ノックアウト自体がフェロトーシスなどの細胞死を誘導せず、さらに脂質除去培地での培養系では明らかなフェロトーシスの増強は確認されなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
脂肪除去培地にフェロトーシス阻害剤を添加した培地下でGPX4の発現が劇的に減少するが、mRNA量はほぼ不変であることなどを鑑みると、脂質過酸化の制御やフェロトーシスのメカニズムには翻訳後の修飾が関わっている可能性が高い。これを踏まえ、本研究では細胞外脂質の減少による細胞内の変化をプロテオミクスとメタボミクスを組み合わせたマルチオミックスを用いて解析する予定であったが、GPX4過剰発現株やFABP5ノックアウト細胞株作製に時間がかかったことや、細胞の状態が不安定で再現性を確かめる実験に時間を要したため、当初の予定であったマルチオミックスの系に関しては次年度に持ち越すこととした。
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今後の研究の推進方策 |
具体的には、細胞外脂質への生存依存の特性を有する細胞株に脂質除去培地、脂質が少量存在する状態でのタンパクおよび脂質を含む代謝物の変化を網羅的に解析する。得られたそれぞれのデータをマルチオミックス解析専門企業への受託にて統合的に解析し(https://www.promega.co.jp/multiomics/)細胞外脂質の代謝経路の変化を調べるとともに、フェロトーシスに関与するシグナルを策定する予定である。さらに、細胞外脂質への生存依存に関連する遺伝子群の同定を行う。すなわち、細胞外脂質への生存依存の特性を示す細胞がその特性を逃れる(消失する)機序、および細胞外脂質への生存依存の特性を持たない細胞がその特性を付与される遺伝子学的メカニズムを検討する。具体的には、CRISPRスクリーニングの系を用い、細胞外脂質への生存依存を逃れるのに必要な遺伝子群、あるいは細胞外脂質への生存依存に必須な遺伝子群を策定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していたマルチオミックス解析を行えなかったため、次年度に一部繰り越しが生じた。繰り越した金額は今年度施行予定のマルチオミックスに使用予定である。
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