大動脈瘤の多くは動脈硬化を基盤として発生し、緩徐に進展・増大し、一定以上の大きさになると破裂し、突然死を始めとする重篤な病態を引き起こす。動脈硬化巣に認められるfoam cellはマクロファージ由来で、動脈硬化巣の成立、ひいては大動脈瘤の発生から進展過程に深く関与している。本研究計画では、マクロファージの遊走・活性化に関与しているケモカインに焦点を当てて、大動脈瘤の進展過程の分子機構を解明して、大動脈瘤進展抑制の新たな治療戦略の開発の基盤形成を目指した。 これまでのマウス大動脈瘤モデルでの我々の検討(Nature Communication 2020; 11(1): 5994)の結果、以下の点が明らかとなっている。①マクロファージの遊走・活性化過程を制御することが知られているケモカインCCL3が、CaCl2によって誘導された大動脈瘤部位へのマクロファージの浸潤を制御している。②CCL3は、大動脈瘤部位に浸潤したマクロファージが発現しているレセプターであるCCR5に働いて、マクロファージによるMMP9産生を抑制することで、大動脈瘤発生を抑制した。 本研究計画において、CCL3の別のレセプターであるCCR1を欠損したマウスでは、野生型マウスと同様な、CaCl2投与による大動脈瘤発症・進展過程が認められたことから、CCR1を介するシグナルがCaCl2投与による大動脈瘤発症・進展過程に関与しないことを明らかにした。 その一方で、CaCl2投与によって生じる大動脈瘤部位に浸潤するマクロファージのうちの一部に別のケモカイン・レセプターであるCX3CR1が発現していることを明らかにした。さらに、CX3CR1欠損マウスでは、CaCl2投与による大動脈瘤発症・進展過程が抑制されることより、CX3CR1発現マクロファージが大動脈瘤発生・進展過程を促進している可能性が示唆された。
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