研究課題/領域番号 |
21K06976
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
越後谷 裕介 日本大学, 生物資源科学部, 講師 (90609950)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
|
キーワード | 筋ジストロフィー / 筋強直性ジストロフィー / 加齢 / 核酸医薬 / アンチセンス核酸 |
研究実績の概要 |
筋強直性ジストロフィー1型(DM1)は、異常な3塩基(CTG)繰り返し配列を持つ変異遺伝子を原因とする成人で最も頻度の高い遺伝性筋疾患である。DM1は筋強直や筋力低下などの骨格筋症状を主徴とするが、加齢に伴う病態変化については不明な点が多く、有効な治療法は未だ開発されてない。本研究は、モデルマウスを用いてDM1の加齢病態の一端を明らかにし、病原RNAを標的とするアンチセンス核酸の有効な治療戦略の基盤情報確立を目的としている。 研究2年目の令和四年度は、DM1モデルマウスを用いて、異常伸長したCTGリピート変異がモデルマウスの成長に与える影響、非侵襲的な筋損傷バイオマーカーである尿中タイチン、および異常筋電位(ミオトニー放電)を指標とした筋強直の加齢性変化を中心に解析した。その結果、DM1モデルマウスでは、メスの若齢期において健常群より低い成長曲線を示した。尿中タイチンはモデルマウスの若齢群において健常群と比べて有意に高い値を示し、高齢群で最も高い値を示すことが明らかとなった。ミオトニー放電は前脛骨筋および大腿四頭筋と比べて腓腹筋で顕著であり、18ヶ月齢の老齢群骨格筋でも明らかなミオトニー放電が検出された。 本結果より、異常伸長CTGリピート変異による影響は、雌雄モデルマウスで異なる可能性が見出された。また本結果から尿中タイチンがDM1骨格筋の新たなバイオマーカーとなる可能性が示された。さらに、本研究で使用したトランスジェニックマウスは、針筋電図検査によるミオトニー放電を指標とした老化骨格筋の筋強直を解析できる有用なモデルである可能性を示すことができた。今後は、本マウスを用いて老化骨格筋の筋強直症状と分子メカニズムの関連性について解析を進めていく予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
DM1モデルマウスの筋強直症状に対する評価法を確立した。従来の一般的な最大筋力を指標とした評価法と比べて、本研究によって確立した筋力差による評価法はDM1モデルマウスの筋強直症状をより明確に顕在化できることが明らかとなった。本研究の筋力差による定量的評価と、非侵襲的筋損傷マーカーとしての尿中タイチンならびに針筋電図検査で示された異常筋電位(ミオトニー放電)の解析結果から、本マウスが異常伸長CTGリピートと加齢の関連性について詳細な解析を可能にするモデルであることが示されつつある。しかし、老化骨格筋における筋強直とCTGリピートの関連性ならびに戻し交配による遺伝的背景の筋強直病態への影響に関する解析については当初計画より遅れているため、より効率的に実験を進める必要がある。
|
今後の研究の推進方策 |
異なる月齢のDM1モデルマウスの筋強直に関する表現型解析は順調に進んでいるが、筋損傷および分子病態メカニズムの観点からの加齢性変化を結論づけるには至っていない。予備実験から、加齢による骨格筋再生能の違いが観察されているため、令和五年度は組織および分子病態の解析を中心とした実験を推進していく予定である。また、当該マウスの遺伝的背景の変更についても繁殖効率の低下が原因で進行が遅れているが、令和五年度では飼育環境や飼料の変更等、実験動物学的な改善アプローチにより、引き続き新たなDM1モデルマウスの確立を目指す。またDM1モデルマウスにおいて尿中タイチンが従来の血清マーカーに比べて鋭敏な反応を示したことは予想外の展開であるが、今後のDM1研究分野において重要な知見になると考えられるため、追加データを取得し新たな病態解析ツールとなる可能性を結論づける予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和四年度においてもコロナ禍のため実務的な研究業務の制約が大きく、予定していた実験の遅延により次年度使用額が生じた。特に、モデル動物の繁殖効率が悪く改善に時間を要しており、予定していた分子生物学的解析が十分に実施できなかったことが影響している。発生した次年度使用額は本研究を推進するため、令和五年度使用額と共に予定にある新たなモデルマウスの作製と分子生物学的解析にかかる費用として使用する。
|