研究実績の概要 |
本研究の目的は、A群β溶血性レンサ球菌(GAS, Streptococcus pyogenes)が劇症型感染症(STSS)を引き起こすときの菌側の強毒化機構を解明することである。我々は以前の研究で、GASのSP2株をマウスに筋肉内接種して20日前後経過すると、二成分制御系タンパク質遺伝子であるcsrS/csrRの突然変異株が感染局所で出現し、全身に播種されてSTSS類似の病態をきたすことを見出した。 令和3年度・4年度は、SP2株ならびにそれ以外のGAS3株をマウスの前肢に筋注して8週間観察した。その結果、接種した4株ともSTSS類似の病態をきたして死亡するマウスの出現が認められた。これらのマウスから血液、筋注部位の筋肉および臓器(肝臓、腎臓、脾臓)を無菌的に採取し、GASが分離された場合には、DNAを抽出してcsrS/csrRの塩基配列を解析した。その結果、4株とも筋注部位でcsrSまたはcsrRに変異を生じた強毒株が出現し、それが全身に播種されることが明らかになった。SP2株で見出された現象は、GASのどの株でも広く起こりうることがわかった。また変異の位置は、異なる親株間でも一部は共通していた。これらより、csrS/csrRに変異が起こるとCovRタンパク質がリン酸化されなくなり、支配下の病原遺伝子の発現抑制ができずに強発現して強毒化するのではないかと考えた。令和5年度はこの仮説を確かめるため、ウサギを用いて抗CovR抗体を作成し、この抗体とPhos-tagゲルを用いて強毒変異株のCovRタンパク質のリン酸化レベルを解析した。しかしこれまでのところ、STSSマウス由来のcsrS/csrR変異株は、親株と比較してCovRタンパク質のリン酸化レベルに明らかな違いが確認できておらず再実験中である。強毒化に直接関与している遺伝子変異はcsrS/csrR以外に存在する可能性もある。
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