これまでの研究で、CADASILにおいてPDGFシグナル経路の活性化がおこっていることがわかっているが、それがどのようにCADASIL病態へ影響しているのかは依然として不明である。CADASILの典型的な症状としては、片頭痛、うつ、脳梗塞、(血管性)認知症が挙げられる。このうち、特に脳梗塞については、患者の運動機能および認知機能の低下の原因であり、最も予後を左右する症状である。NOTCH3変異により脳梗塞を発症するメカニズムの検討をおこなうため、PDGFシグナル経路の下流に位置するPlasminogen activator inhibitor type-1 (PAI-1)の定量を行った。患者由来iPS細胞から分化誘導した壁細胞を正常酸素および低酸素環境下で培養し、培養上清中のPAI-1をELISAで測定したところ、ControlとCADASIL間で正常酸素下および低酸素下での分泌量に差がある可能性が示唆された。CADASIL治療薬として有望視されているPDGFRβ阻害薬を投与し、PAI-1の分泌濃度に変化があるかどうかも検討を行ったが、これについては分泌量に有意な差はなかった。これは、CADASILの病態メカニズムとして、PDGFRβと、hypoxic ストレスの独立した2つの経路があるという可能性を示唆しているかもしれない。実際、PDGFRβ阻害薬をCADASIL壁細胞に投与しても、HIF-1aの発現量には変化は見られなかった。 研究期間中に進めてきた、CADASIL変異をCRISPR-Cas9でiPS細胞に導入する実験については、目的の点変異クローンは得られていないものの、NOTCH3の変異株は得られており、そちらの解析を今後進めていく予定である。
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