研究課題/領域番号 |
21K06988
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
西條 由見子 (濱野由見子) 神戸大学, 医学研究科, 医学研究員 (00444513)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | トキソプラズマ / 寄生包膜 / Irgb6 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
大腸菌発現系から精製したIrgb6にGTPase活性があることを確認した。精製したIrgb6の結晶化に成功し、大型放射光施設SPring-8にて結晶のX線回折データを収集した。回折データから構造解析を行い、GTP結合型(1.5オングストローム分解能、PDB ID:7VEX)とヌクレオチドフリー型(2.0オングストローム分解能、PDB ID 7VES)の二状態の立体構造を解明した。 これらの結晶構造と既発表の研究結果から、Irgb6のGドメインの反対側の部位が寄生胞膜との結合部位ではないかと推測し、Irgb6とリン脂質とのドッキングシミュレーションを行った。結果、予測した結合部位に寄生胞膜特有の構成成分であるホスファチジルイノシトール5-リン酸(PI5P)が強く結合することがわかった。さらに、結合部位の構造維持に関わる3Wに変異を入れたIrgb6_W3A変異体で同様のシミュレーションを行なったところ、PI5Pとの結合力が著しく弱まることもわかった。マウス胎児繊維芽細胞を使った検証実験でも、Irgb6_W3A変異体は寄生胞膜へ動員されず、同時に他のIRGタンパク質も蓄積されず、トキソプラズマの殺傷に至らないことが確認された。以上の研究結果から、Irgb6の立体構造そのものに寄生胞膜のPI5Pを適切に認識する機能があり、Irgb6がPI5Pと結合して寄生胞膜に蓄積し、他の寄生胞膜破壊に関わるタンパク質を効率よく寄生胞膜に導くことで、トキソプラズマの殺傷に大きく貢献していることが明らかとなった。 これらの研究成果をまとめ、査読付き英文論文を発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究課題の第一目的であった「病原性寄生虫トキソプラズマの殺傷に重要なIrgb6の詳細な分子構造の解明」を達成した。Irgb6の構造解析は世界初である。その詳細な分子構造とシミュレーション実験から、Irgb6の構造そのものに「トキソプラズマ寄生胞膜の構成成分であるPI5Pを認識し結合する機能」が備わっていることを明らかにし、これらの研究成果を論文発表した(Saijo-Hamano,Life Sci Alliance, 2021, e202101149)。以上のことから当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予定位通り、Irgb6のGTPase活性による機能発現の機構を明らかにするために、GDP結合型Irgb6、Irgb6変異体の結晶化スクリーニングを引き続き進め、構造解析に繋げる。Irgb6と協働して寄生包膜を破壊するGBP1の結晶化を推し進める。さらに、電子顕微鏡解析のためのIrgb6二量体、および、Irb6-GBP1複合体の形成条件の探索を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は、コロナ禍で学会やセミナーなどが全てオンラインでの参加となり旅費が不要になったこと、および、野生型Irgb6の構造解析が非常に順調に進み、論文執筆にも時間を割いたため、当初の予定よりも消耗品の消費が少なく済んだことから、助成金の使用額が予定よりも少額となった。 令和4年度は、まだ結晶化に成功していないGDP型Irgb6、Irgb6変異体、さらに、GBP1の結晶化を精力的に進めるため、令和3年度以上にタンパク質精製、結晶化、回折データ収集に使用する試薬やクロマトグラフィーレジン、プラスチック消耗品、液体窒素などが必要と考えられ、助成金は主にこれらに充てる。また、電子顕微鏡解析のためのグリッド等や共同研究施設の電子顕微鏡使用料にも充てる。
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