I型トキソプラズマ(強毒性)よるIrgb6の不活化機構については生化学的にも細胞学的にも研究が進み詳細が解明されている。一方、II型トキソプラズマ(弱毒性)によるIrgb6の不活化機構については不明な点が多い。大阪大学山本雅裕教授らのグループによって、II型トキソプラズマに感染するとIrgb6のThr95が顕著にリン酸化されることが見出された。さらに、I型トキソプラズマ感染によるIrgb6不活化機構とは異なり、リン酸化擬似変異体Irgb6_T95D(以下、変異型)がトキソプラズマ包膜(以下、PVM)と相互作用することができずPVM上に局在できないことも見出された。 そこで、変異型のGTPase活性について調べたところ、野生型に比べて変異型の活性は著しく低く、さらに、野生型がポリマー化する条件下で変異型はポリマー化することができないこともわかり、Irgb6の機能発現にはGTP結合後の構造変化によるポリマー化が必要であり、この変化がThr95のリン酸化によって阻害されていることが示唆された。Irgb6が95Tのリン酸によってどのように構造変化しているかを知るために、様々なヌクレオチド存在下での変異型の結晶化と結晶構造解析を試み、結果、GTP結合型とヌクレオチドフリー型の分子構造を解明した。驚いたことにIrgb6分子の中でリン酸化するThr95とPVMと相互作用するPVM結合ループは50Åも離れているが、PVM結合ループの構造が大きく変化していた。HDX-MSによる分析結果と詳細な分子内構造変化の追跡により、このループの構造変化は結晶化によるアーティファクトではなく実際に溶液中での変化であることが強く示唆された。また、ドッキングシミュレーション解析により、変異型はPVM特有リン脂質PI5Pと正常に相互作用しないこともわかった。以上の結果からIrgb6不活化機構を提唱した。
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