研究実績の概要 |
赤痢アメーバはヒトの大腸に寄生し、アメーバ赤痢を引き起こす寄生原虫である。生活環は栄養型期とシスト期の2つに大別され、感染はシストの経口摂取による。シスト形成は原虫の伝播・生存に関わる重要な生物機構であるが、その制御機構は未解明なままである。現在我々は、シスト形成制御機構の全容解明を目指して、研究を進めている。 我々は、赤痢アメーバが合成する含硫脂質の1つコレステロール硫酸(CS)が栄養体からシストへの形態変化“シスト形成”制御に必須な分子であることを報告している(Mi-ichi et al, PNAS, 2015)。しかしながら、詳細な分子機構は不明であった。 CSの細胞内の濃度をLC-MS/MSを用いて測定した結果、栄養体期の原虫では243±37μM、シスト期の原虫では539±37μMであった。この情報を基に、培地に細胞内と同程度の濃度(100, 300, 500 μM)のCSを加えて栄養体の細胞を処理すると、CSの濃度依存的に細胞が球形化するだけでなく、膜の透過性が低下すること、それぞれが独立した事象として起こることを見出した。分子機構の解明を行った結果、コレステロール硫酸が超長鎖セラミドを合成誘導し、超長鎖セラミドの蓄積は細胞膜の透過性低下を生じさせることを明らかにした。以上の結果から、コレステロール硫酸が多機能分子であると結論、原著論文として報告した(Mi-ichi et al, mSphere, 2022)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
理由 コレステロール硫酸(CS)が栄養体からシストへの形態変化“シスト形成”制御に必須な分子であることを、我々は既に報告しているが(Mi-ichi et al, PNAS, 2015)、詳細な分子機構は不明なままであった。今回コレステロール硫酸が球形化および膜の透過性低下という、成熟シストが次の宿主へと感染を伝播する際、重要な特徴を、CSがそれぞれ独立に制御していることを明らかにしたことから、多機能分子であると結論、原著論文として報告することが出来た(Mi-ichi et al, mSphere, 2022)。
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