研究課題
メチシリン耐性黄色ブドウ球菌は多剤耐性を示すことから、抗生剤によらない新たな感染防御対策の確立が待たれている。そこで、黄色ブドウ球菌ワクチンの開発が進められているが、いまだに有効なワクチンは登場していない。令和5年度は黄色ブドウ球菌弱毒株による生菌ワクチンについて検討した。黄色ブドウ球菌の弱毒株S. aureus RN4220株(RN4220)またはRN4220株にToxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)遺伝子を導入し、TSST-1を過剰発現するRN4220/tst株をマウスに接種して獲得免疫を誘導し、その12週間後に同株を再感染させ防御効果を検討したところ、RN4220株、RN4220/tstいずれの場合も、ワクチン未接種の対象群と比べ生存率、臓器中の生菌数に差はなく、感染防御効果は見られなかった。そこでRN4220株またはRN4220/tst株を接種し、その12週間後に致死量のTSST-1産生臨床分離株S. aureus 834株を感染させ感染防御効果を調べたところ、RN4220株、RN4220/tstのいずれを接種した場合でも、対象群と比べ生存率の低下、臓器中の生菌数の増加が見られ、RN4220株生菌ワクチンはTSST-1の存在に関係なく黄色ブドウ球菌再感染を悪化させることが示唆された。次に、この現象のメカニズムを調べるために、生菌ワクチン接種の12週間後にS. aureus 834株を感染させ、脾臓のサイトカインmRNA発現を調べたところIL-17やIFN-γなどの炎症性サイトカインの産生の増加は見られなかったが、抑制性サイトカインIL-10のmRNAの発現が亢進しており、再感染の悪化にはIL-10が関与する結果が得られた。
3: やや遅れている
当初は黄色ブドウ球菌の接着因子であるClumping factor A(ClfA)によるコンポーネントワクチンの感染防御効果にToxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)がどのような影響を与えるのかを調べるために、ワクチン接種後、S. aureus RN4220株(RN4220)またはRN4220株のTSST-1過剰発現株であるRN4220/tst株を感染させ、そのワクチン効果を検討する予定であったが、ワクチン効果は見られなかった。文献を検索したところRN4220株は正常なClfAを欠損していることが判明した。そこで方針を変更しRN4220株またはRN4220/tstを生菌ワクチンとして接種してTSST-1存在下、非存在下で獲得免疫を誘導、その後強毒株S. aureus 834株を感染させ、生菌ワクチン効果を検討することとした。このように当初の研究計画の変更が必要になったことが、進捗状況がやや遅れている理由である。
RN4220株、RN4220/tst株による生菌ワクチンが黄色ブドウ球菌再感染を悪化させるメカニズムにIL-10が関与する結果が得られているが、今後はPD-1やPD-L1、CTLA4などの免疫抑制に関わる分子のmRNA発現を検討する。さらにIL-10の産生細胞を特定するため細胞内サイトカイン染色を行いフローサイトメトリーを行う予定である。
当初の計画では黄色ブドウ球菌の接着因子であるClumping factor A(ClfA)によるコンポーネントワクチンの感染防御効果にToxic shock syndrome toxin-1(TSST-1)がどのような影響を与えるのかを調べるために、ClfAワクチン接種後、S. aureus RN4220株(RN4220)またはRN4220株のTSST-1過剰発現株であるRN4220/tst株を感染させ、そのワクチン効果を検討する予定であった。ところがClfAワクチンの効果が見られなかったため、文献を検索したところRN4220株は正常なClfAを欠損していることが判明した。そこで方針を変更しRN4220株またはRN4220/tstを生菌ワクチンとして接種することでTSST-1存在下、非存在下で獲得免疫を誘導し、その後強毒株S. aureus 834株を感染させ、生菌ワクチン効果を検討することとした。このように当初の研究計画の変更が必要になり補助事業期間を延長したことが次年度使用額が生じた理由である。今後はワクチンによる感染悪化のメカニズムを免疫抑制に関する分子のmRNA発現や細胞内サイトカイン染色を行い検討する。
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