近年になりStreptococcus dysgalactiae subsp. equisimilis(SDSE)による感染症が高齢者や基礎疾患保有者で多く報告され、その数は他のβ溶血性レンサ球菌を上回っている。SDSEは、多くの機能不明遺伝子を有しており、その病原性メカニズムは多くが不明である。本研究課題では、劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)を含む重篤な感染症の原因菌であるSDSEを対象に、感染に関与する病原因子や宿主体内(血液や臓器)での増殖・障害メカニズムを解析した。 国内で最も流行しているタイプであるstG.6792型SDSEについて、ヒト血清成分の存在下で強い接着性があることを確認した。網羅的な遺伝子発現解析により、ヒト血清成分を含む培地中で線毛形成関連タンパク質をコードする遺伝子群の発現が有意に上昇していることを確認した。また、劇症型由来stG.6792型SDSE 4株の完全ゲノム配列を決定し、stG.6792型SDSEに固有の遺伝子を抽出した。 さらに、国内で流行しているCC25型SDSEについて解析を進めた結果、非常にゲノム配列が近い(99.5%以上)2つのCC25型SDSEの間で、血液に対して高い病原性を示す毒素の発現量が大きく異なることがわかった。両方のSDSEのトランスクリプトーム解析を実施し(2022年度先進ゲノム支援)、毒素発現を制御する候補因子を抽出した。 SDSEをマウス尾静脈に感染させた結果、肝臓と腎臓に集積し、肝臓では菌体数が減少する一方、腎臓では増殖していた。ゲノム上近縁とされるStreptococcus pyogenesでは腎臓での増殖が観察されなかったことから、SDSEは腎臓で定着する感染メカニズムを持つことが示された。
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