研究課題/領域番号 |
21K07003
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
平松 征洋 大阪大学, 微生物病研究所, 助教 (90739210)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 百日咳 / small RNA |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、百日咳菌の感染性・病原性をsmall RNA(sRNA)による病原因子の発現制御の観点から解析することにある。申請者はこれまでに、百日咳菌の宿主感染時に発現量の増加するsRNA(Bpr4)が本菌の産生する主要な接着因子FHAの発現量を増加させ、宿主への感染を促す作用を示すことを見出している。本年度は、Bpr4の発現量が宿主感染時に増加する機構を検討した。 百日咳菌のゲノムには二成分制御系と考えられる遺伝子が13種類存在している。これらの欠損株を作製し、宿主感染時のBpr4発現量を検討したところ、RisK/RisAシステムがBpr4の発現を制御していることが分かった。本システムはc-di-GMPの濃度依存的に機能することが報告されているため、c-di-GMP合成酵素であるdiguanylate cyclase(Dgc)の関与を調べた結果、DgcBの活性化によるc-di-GMPの菌体内濃度の増加がBpr4の発現増加には必要であった。 また、申請者は以前に、bpr4プロモーターの下流にgfp遺伝子を挿入したレポーター株をCalu-3細胞(ヒト肺由来細胞株)に感染させ、菌の蛍光強度を指標にBpr4の発現量を測定する実験系を構築している。本系と百日咳菌のトランスポゾン変異体ライブラリーを用いて、Bpr4の発現制御に関与する遺伝子を網羅的に探索したところ、べん毛の構成成分であるFliC(フラジェリン)およびMotA(固定子)がBpr4の発現増加に必要であることを発見した。さらに、MotAはDgcBと結合することで、DgcBを活性化し、c-di-GMPの産生を増加させていた。 以上の結果より、百日咳菌のべん毛が宿主を感知することで、MotA-DgcBを介してc-di-GMPの濃度が上昇し、RisK/RisAシステム依存的にBpr4の発現量が増加することが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
申請者はこれまでに、百日咳菌の産生する4種類のsRNA(Bpr4, 5, 8, 9)の発現量が宿主感染時に大幅に増加していることを見出している。本研究の目的は、これらのsRNAの発現調節機構と当該sRNAによって制御される因子を解析することで、新たな観点から百日咳菌の感染性および病原性の理解を目指すことにある。 本年度は、現在最も知見の蓄積が多いBpr4の発現増加機構を解析し、百日咳菌がべん毛、c-di-GMP、RisK/RisAシステムを介してBpr4の発現を制御していることを見出した。Bpr4の発現増加に必要な宿主側の因子についてはいまだ同定できていないが、細菌側の制御機構については明らかにすることができたため、おおむね順調に進展していると判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、宿主感染時のBpr4の発現増加に関与する宿主側の因子の同定を試みる。この解析では、CRISPR/Cas9システムおよびguide RNA(gRNA)ライブラリーを用いて網羅的に変異を導入した培養細胞(遺伝子欠損ライブラリー)を利用する。具体的には、bpr4プロモーターの下流にgfp遺伝子を挿入した百日咳菌レポーター株を遺伝子欠損ライブラリー細胞に感染させ、低レベルのGFP発現を示す菌が接着した細胞をFACSにより分離する。回収した細胞株に導入されたgRNA領域をPCRにより増幅後、次世代シークエンサーを用いた解析により、Bpr4の発現増加に必要な宿主因子を同定する。 一方、百日咳菌の宿主感染時に発現量の増加するBpr4以外のsRNA(Bpr5, 8, 9)についても、それらの発現調節機構と当該sRNAによって制御される因子の解析を実施する。Bpr5, 8, 9の発現増加機構については、Bpr4と同様の方法で、発現制御に関与する細菌側および宿主側の因子の同定を試みる。標的遺伝子の同定では、sRNA欠損・過剰発現株と親株のタンパク質発現量をiTRAQ法などによって比較解析し、sRNAの欠損または過剰発現により発現量が変動するタンパク質を探索する。また、CopraRNAなどのsRNA解析ツールを用いてsRNAの標的遺伝子を推定したのち、アガロースゲル電気泳動やカロリメトリーなどの手法でRNA-RNA間の結合を確認する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
(理由)国内学会での成果発表のための旅費を計上していたが、参加したすべての学会がオンライン開催となったため、次年度使用額が生じた。
(使用計画)当初計画していなかった国際学会での発表を予定しているので、その際の旅費として使用する。なお、現状では、本学会は現地(カナダ)で開催される予定である。
|