我々は、Vibrio alginolyticusのコラゲナーゼの産生がVarS/VarA二成分制御系によって調節されることを見出したことを端緒として、本菌のVarS/VarA制御系の発現調節機構を詳細に解析してきた。VarS/VarA制御系は、大腸菌やPseudomonas属、Vibrio属の細菌に保存されており、複数のsmall RNA(sRNA)の発現を調節して、RNA結合タンパク質CsrAの標的遺伝子mRNAの上流領域への結合量を調節することで、標的遺伝子の翻訳を制御する。我々は、本菌がVarS/VarA制御系依存性のsRNAを4つ(sRNA1、sRNA2、sRNA3、sRNA4)保有することを明らかにした。これまでは、細菌が保有する複数コピーのVarS/VarA制御系依存性sRNAは、単純なコピーであり機能に差はないと考えられていた。我々は、4つのsRNAの発現調節機構を詳細に解析した結果、それらが異なる調節を受ける可能性を見出し、その詳細を解析した。その結果、4つのsRNA遺伝子の上流領域それぞれに異なるタンパク質が結合することを明らかにした。さらに、それらのうち、ArcB/ArcA二成分制御系が嫌気条件下におけるsRNA1の発現を調節し、Leucine-responsive regulator (Lrp)がロイシンの存在を感知することによりsRNA1の発現を調節することを明らかにした。 本研究の成果から、VarS/VarA制御系依存性sRNAは、単純なVarS/VarA制御系の構成因子ではなく、sRNAとRNA結合タンパク質CsrAからなる、種々の環境シグナルを演算し、環境に適応するために最適な遺伝子発現を導く統合型発現調節システムであるとのモデルを提唱するに至った。
|