研究課題/領域番号 |
21K07010
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
山本 惠三 奈良県立医科大学, 医学部, 准教授 (90254490)
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研究分担者 |
矢野 寿一 奈良県立医科大学, 医学部, 教授 (20374944)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | メタロ-β-ラクタマーゼ / 基質特異性 / X線結晶構造解析 |
研究実績の概要 |
令和3年度については、まずIMP-6とIMP-1の基質特異性を決定している要因を探るため、それぞれの構造解析を行った。IMP-6はIMP-1のSer262がGlyに置換した1アミノ酸置換の酵素であるが、IMP-1はメロペネムに対する活性とイミペネムに対する活性がほぼ同じであるのに対し、IMP-6はメロペネムに対する活性がイミペネムに対する活性の7倍高い。これまでの研究で、この基質特異性の違いは、基質結合に関与するフレキシブルループ(L1)と呼ばれる部分の構造の違いであると推察されていた。しかしながら、この部分は結晶中のパッキングの影響を受けることが考えられたため、IMP-6とIMP-1を同一の空間群、結晶格子の結晶を作成し、それぞれの構造を1.70 Å、1.94Å分解能で解析した。その結果、両者の構造は、L1部分を含めてほぼ同一であったが、温度因子の解析から、IMP-6の方がL1部分の柔軟性が高く、側鎖の大きいメロペネムをより保持しやすいことが示された。その原因としては、Ser262Glyのアミノ酸置換により、262位のアミノ酸が存在するループの可動性が高まることによってHis263が動きやすくなる。His263は、L1の基部に存在し、L1が動く際のヒンジとなるPro68と水素結合しているため、IMP-1に比べ、IMP-6ではPro68がより動きやすいことが、L1のフレキシビリティーの増大につながることを解明した。 次に、結晶化条件検索キットを使用して、IMP-6とメロペネムの共結晶が析出する条件の検索を行った。約600条件を検討した結果、15 mg/mL IMP-6, 40 mM meropenem, 20 % PEG3350, 0.1% n-octyl-glucoside, 0.1 M sodium citrate pH 5.5において、柱状の微結晶の析出を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度においては、IMP-1、IMP-6とメロペネムの複合体を結晶化し、X線結晶構造解析を行う予定であった。ところが、比較対象となる野生型IMP-1、IMP-6の構造解析に予想以上に時間がかかったため、IMP-6とメロペネムの複合体の結晶化条件の検索までしか到達しなかった。しかしながら、IMP-6とメロペネムの複合体の結晶化条件の検索の結果から、構造解析に供することが可能な大きさの複合体結晶を得る方法として、ポリエチレングリコールの分子量を変更する、pHを上げる、の2点が有効であることが判明した、従って、構造解析を行う上で十分な大きさのIMP-6とメロペネムの複合体の結晶については作成できる目途が立っている。また、IMP-1とメロペネムの複合体の結晶化については、野生型においてもIMP-6とIMP-1の結晶化条件は似通っていたので、IMP-6とメロペネム複合体の結晶化条件の近傍を探るとともに、結晶化条件検索キットを用いることによって、この複合体の結晶の作成は、十分可能であると考えている。 SPring-8におけるX線回折データ収集については、大阪大学蛋白質研究所との共同研究を申請したので、BL44XUにおいて、今年度中に行える体制にある。 変異型酵素についても、ループ部分(L1)の柔軟性に影響を与えると考えられる、Pro68Glyの変異型酵素の大量発現に成功し、酵素学的性質の決定も行った。このことは、当初の計画において2022年度に行う予定であった、変異型酵素とカルバペネム系抗菌薬との複合体の構造解析を行うための準備ができたと考えている。 以上のことから、令和3年度は研究の進捗が少し遅れていると自己評価したが、令和4年度中に挽回できるものと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、まずIMP-6とメロペネムの複合体、IMP-1とメロペネムの複合体の構造解析を行う予定である。IMP-6-メロペネム複合体については、15 mg/mL IMP-6, 40 mM meropenem, 20% PEG3350, 0.1% n-octyl-glucoside, 0.1 M sodium citrate pH 5.5において、柱状の微結晶の析出を確認しているが、PEG3350の代わりにPEG2000を使用した方がさらに良好な結晶が得られているので、さらにPEGの分子量を変えて結晶化条件の精密化を行う。得られた結晶を用いて、SPring-8のBL44XUにおいてX線回折データを収集し、令和3年度に構造を決定した野生型IMP-6のデータを用いた分子置換法により複合体の構造を決定する。 IMP-1とメロペネムの複合体の結晶化については、IMP-6とメロペネムの複合体の結晶化条件の近傍を検索するとともに、結晶化条件検索キットを用いて広範囲に結晶化条件を検索する。得られた結晶を用いて、IMP-6とメロペネムの複合体と同様に構造解析を行う。 イミペネムとの複合体についても、結晶化条件の検索を行い、構造解析を行う予定である。以上のデータより、基質結合、特に基質特異性の決定に関与しているアミノ酸残基を特定する。この情報は今後、新規の抗菌薬を設計するための重要な情報になると考えている。さらに、特定したアミノ酸残基に変異を導入した変異型酵素を作成してそれらの酵素学的性質を決定する。酵素学的性質が大きく変化した変異型酵素を用いて、令和4年度には、変異型IMP-6, IMP-1とカルバペネム系抗菌薬との複合体の構造解析を行う予定である。以上の結果から、基質の結合に対してより多くの知見が得られるものと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度に低温インキュベーター2台の購入を申請していたが、設置場所の関係で外形寸法の小さい物しか購入できなかったため、差額が生じた。また、野生型IMP-6とIMP-1のX線結晶構造解析を行い、基質特異性の違いが生じる原因を解明していたために、予定より実験が少し遅れた関係で、IMP-1とメロペネム複合体の結晶化条件の検索が行えなかった。そのため、この実験に必要な結晶化条件検索キットを購入しなかった。繰り越し額の大半は、この結晶化条件検索キットを購入しなかったために生じている。以上の理由で令和4年度への予算の繰り越しが生じてしまった。 令和4年度では、まずIMP-1とメロペネムの複合体を結晶化し、構造解析を行う予定であるので、早急に結晶化条件検索キットを購入して結晶化条件を広範囲に検索して実験を遂行する。このことで計画通りの予算執行が可能であると考えている。
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