研究課題/領域番号 |
21K07015
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研究機関 | 関西医科大学 |
研究代表者 |
狩谷 秀治 関西医科大学, 医学部, 准教授 (40368220)
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研究分担者 |
谷川 昇 関西医科大学, 医学部, 教授 (90227215)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | ポリ2メトキシエチルアクリレート / 抗菌カテーテル / 中心静脈カテーテル / バイオフィルム / カテーテル由来血流感染症 / 薬剤耐性 / AMR / グローバル・アクション・プラン |
研究実績の概要 |
報告者らは抗蛋白付着性によるポリ2メトキシエチルアクリレート(PMEA)カテーテルの抗血栓性を報告した。研究過程においてこの抗蛋白付着性によりバイオフィルムの形成も阻止するのではないかと考え他の抗菌カテーテルと比較したところ殺菌性は全くないがカテーテル表面の細菌数が少なくなる傾向が示された。この相反する機能に着目し殺菌性のない抗菌PMEAコーティングカテーテルを発案した。さらに従来の抗血栓性コートから抗菌性として最適となるコート法を開発した(特願2020-177627)。そこで本研究でこの開発した抗蛋白付着性PMEAコーティングカテーテルがバイオフィルム形成を阻止し菌の付着、増殖を妨げることを証明し、そしてそのメカニズムを明らかにすることとした。本抗菌カテーテルは安価で生体適合性が高いため従来の抗菌カテーテルと違い広く使用でき公衆衛生的にCRBSIを予防し、そして最大の利点として殺菌性がないため薬剤耐性対策の一つとなる。 カテーテル由来血流感染症(CRBSI:catheter-related bloodstream infection)は患者と医療経済に不利益である。さらに治療として抗菌薬の使用が薬剤耐性菌の増加をもたらす。したがってCRBSIの予防は厚生労働省が示す薬剤耐性(AMR)に関するグローバル・アクション・プランの国家行動計画の一つと考える。米国疾病対策センターは抗菌カテーテルの使用はCRBSI予防に有用とするが、クロルヘキシジン含浸カテーテルは薬剤溶出によるアナフィラキシーショック、抗菌薬コーティングでは薬剤耐性菌の出現の問題があり本邦では一部の状況を除き使用できない。CRBSIを予防する新たな抗菌カテーテルの開発が必要である。 本研究の目的はPMEAコーティングがカテーテルへの菌の付着量を減少させることを実証し、そのメカニズムを解明することである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2022年1月18日、実験施設借用の上、実験を予定したがCOVID19感染拡大のため前々日に大学から中止の要請があり中止した。2022年3月8日、中止した実験を行った。 2022年3月時点で合計N=6(ドナー1-6)を行った。 いずれのカテーテルのおいても表皮ブドウ球菌のバイオフィルム形成は目視で確認されなかった。黄色ブドウ球菌では未コートのカテーテルにおいてドナー1-4で確認された。表皮ぶどう球菌、黄色ブドウ球菌ともドナー1-4においてはバイオフィルム定量、カテーテル菌数とも未コートの方が多くPMEAコードではいずれも抑制されたと判断した。しかしドナー5-6の実験では表皮ぶどう球菌においてカテーテル菌数が一部逆転する結果が認められた。ドナー1-4の結果と比較し数値が100倍以上多く何らかのエラーがあると推測された。検証の結果、初期菌数が多く使用した菌液の管理に問題があったと判断された。またドナー1-5の黄色ブドウ球菌のバイオフィルム定量では血漿浸漬ありの場合、いずれもPMEAがバイオフィルム形成を抑制する結果であったが、バイオフィルム染色液中に剥離したバイオフィルムが存在していることが判明した。したがってバイオフィルムの染色、定量方法の精度に改善の余地があった。すべてを同じ実験手順でやり直す必要があり、これからN=8が必要な試験数と考え、すでに行ったN=6と合わせてN=14を見込みの試験数とした。関西医科大学倫理委員会に実験計画書、手順書の変更申請を行い、2022年9月9日にこれが承認された。 2022年12月13日、N=2(ドナー7、ドナー8)の実験を行った。実験は計画書通り遂行したが、操作のミスにて結果が不正確となった。実験の操作の見直しを再度行っている。また実験計画書の変更申請を予定している。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きPMEAコーティングカテーテルの抗菌性の試験を行う。 ドナー1人あたり400mL採血を行う実験でありこれまで通り倫理審査にて承認された通りの研究を遂行する。コート(n=8)、未コート(n=8)で比較する。菌液作成、血漿浸漬、菌液浸漬、菌定量は計画書通り行う。 2022年度で得た結果を基に2023年度から変更する点はバイオフィルム染色液中に剥離したバイオフィルムの回収である。回収した染色液入り遠沈管を遠心分離し、カテーテルから剥離したバイオフィルムを遠沈管底部に沈降させる。1mLを残して上清を捨て、精製水10mL添加後、沈降したバイオフィルムを再分散させる。一連の操作をさらに5回繰り返し、余分な色素を洗う。バイオフィルム分散液を別の新しい遠沈管に移して遠心分離後、0.5mLを残して上清を捨てる。沈降したバイオフィルムを再分散させ、33%酢酸0.5mLを加えてバイオフィルムのトルイジンブルーを抽出する。さらに遠心分離後、上清を回収する。シャーレおよび遠沈管から回収したトルイジンブルー回収液について分光光度計で634nmの吸光度を測定する。 本研究ではPMEAコーティングが耐性菌を作らない抗菌コーティングであることを提案するが、この理論としてPMEAコーティングが殺菌作用のないことを証明しなければならない。このために寒天培地での試験を行う。PMEAコート、未コート、クロルヘキシジン含有、銀含有のカテーテルで比較試験を行う。JIS Z2801抗菌加工製品の抗菌性試験を基に試験を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19感染対策のため出張が制限され実験が延期になっていたため。実験計画の見直しがあり修正する実験方法の検証に時間を要した。これによる実験の遅れがあった。次年度への実験の延期により次年度使用額が生じた。この使用額に、比較実験に使用する消耗品、施設の使用料、検査の委託費、実験への出張費が含まれる。
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