研究課題/領域番号 |
21K07016
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研究機関 | 第一薬科大学 |
研究代表者 |
小川 和加野 第一薬科大学, 薬学部, 教授 (90397878)
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研究分担者 |
廣村 信 第一薬科大学, 薬学部, 准教授 (30411036)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 抗菌薬多剤耐性 / コリスチン耐性 / 肺炎桿菌 / 2成分転写制御系 |
研究実績の概要 |
肺炎桿菌の多剤排出ポンプKexDは幅広い基質特異性を示す強力なポンプであるが、研究室培養条件下では発現が認められないことがわかっている。 以前、我々のグループはこのKexDを恒常的に発現する変異株を分離し、変異株では二成分転写制御系CrrAB系のCrrBに点変異が生じていることを明らかにした。さらにこのKexD発現上昇株からcrrB遺伝子を破壊すると、KexDの発現が低下することも明らかにしている。CrrBは当初、コリスチン耐性に関わる遺伝子として報告された。我々が見出したCrrBの点変異と同一の変異も、他グループによりコリスチン耐性株で見出されている。 本課題を実施するにあたり、所有するKexD発現上昇変異株のコリスチン耐性について調べた。その結果、我々の株でコリスチン耐性の上昇は認められなかった。従って、CrrBの変異を介するKexDの発現上昇とコリスチン耐性化の間に直接的なリンクはないと考えられた。次に肺炎桿菌ATCC10031株とこの株からcrrBを破壊した株AKB株それぞれから、コリスチン耐性株を分離した。コリスチン耐性株は1段階では分離できず、段階的にコリスチン濃度を上昇させることにより分離した。また、AKB株由来の株ではコリスチン耐性化が不安定な傾向がみられ、コリスチン耐性化が誘導性、あるいは馴化によっても生じうることが示唆された。 コリスチン耐性が安定した変異株をATCC10031株から6株、AKB株から5株分離した。これらについて、一般的な肺炎桿菌の生化学的性質を確認した。また、変異導入前の株と比較し、多剤排出ポンプ遺伝子acrBに変異が生じていないことを確認した。従って、これらの株は正しくそれぞれの親株由来の変異株であることが示された。 今後は、これらの株について全ゲノムシーケンスを実施し、ゲノム上の変異部位を明らかにする予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍の余波により想定以上に日常業務が研究時間を圧迫した。また、投稿中の論文のリバイスのための追加実験などを優先して実施する必要があった。
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今後の研究の推進方策 |
現在手元にある肺炎桿菌株以外の株で、コリスチン耐性株の分離を行う。また、CrrBを介するKexDの発現上昇とCL耐性化のメカニズムの解明に取り組む。KexDの発現を変化させる因子として、c-di-GMPホスホジエステラーゼ、RNAヘリカーゼ、に注目している。これらの遺伝子クローニングはほぼ完了した。これらがKexD発現にどのような影響を与えるのかに注目し、研究を進める。また、これらの遺伝子がコリスチン耐性とリンクしているのかも併せて調べる。 リン酸利用に関係する遺伝子群(phnHなど)についても、遺伝子クローニングを実施し、kexD発現、あるいはコリスチン耐性化を引き起こすかどうかについて調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
大きく差額が生じたのは旅費とその他の項目である。 コロナ禍の影響で参加予定であった学会がオンライン化され、旅費が発生しなかった。2022年度の学会開催状況は不明だが、開催されれば旅費として使用し、オンライン実施のみとなった場合は、物品費等に組み替えて使用する。 また、その他の項目は発現解析等の外注のための予算であるが、研究の進行がやや遅れている関係から、発現解析自体が後ろ倒しになっている。発現解析は実施可能になり次第実施する。
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