研究課題
細菌における走流性応答の研究を実施した。ヒト肺炎の病原細菌であるMycoplasma pneumoniaeは宿主組織の表面などに付着し運動するが、この運動の環境中における役割は不明であった。申請者は、自作したフローチャンバーとシリンジポンプを接続させることで細菌に厳密に制御した水流を与え、その様子を光学顕微鏡下で観察した。菌体は非対称形状をしており、1-3 mm/sの速さの水流を受けると菌体の先端にある付着部位を軸に回転し、流れに向かうように配置した。これにより、水流に逆らって動くという正の走流性を持つことを明らかにした。このような走流性応答は、淡水魚のエラやヒト尿路から単離されたMycoplasma mobileやMycoplasma penetransでも観察することができた。いずれの環境においても水流の流れが存在しており、流れを感知する機構は宿主への感染プロセスに重要であることが明らかになった。これらの成果はPLOS Pathogens誌に掲載された。また、走流性に関する総説がMicrobiology and Immunology誌に掲載された。さらに、本研究で構築した走流性観察の手法を、マイコプラズマだけでなく他の細菌種にも適用した。Flavobacterium johnsoniaeやThermus thermophilusといった、マイコプラズマとは異なる分子メカニズムで表面に付着・運動をする細菌種でも同様の走流性応答を明らかにした。一般に、表面運動の速度は、遊泳運動のそれよりもはるかに遅い。しかし、表面付着型の細菌は、遊泳細菌では流されてしまうような水流環境で高い指向性を持って動くことで、より良い環境へと到達する生存戦略を発達させたのだと考えられる。
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