研究課題
薬剤耐性菌問題が深刻化する中、細菌が産生する病原因子を標的とした薬剤開発が注目されている。特に、さまざまな病原因子の中でも、病原菌の宿主定着に関与する細菌線毛は魅力的な創薬標的と考えられている。これまでの腸管毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic Escherichia coli: ETEC)の研究から、ETECが産生するIVb型に分類される線毛が腸管上皮への付着及びその後の定着において重要な役割を担い、また、線毛先端部において当該線毛依存的に分泌されるタンパク質と相互作用することが付着能発現に必須であることを明らかにした。本研究では、この新たに見出された“線毛と分泌タンパク質とのインタープレイ”がETECを含む腸内細菌のIVb型線毛システムに共通した特徴であることを実証し、また、構造生物学的手法により各細菌の分泌タンパク質の機能を解明することを目的とする。得られた情報からIVb型線毛システムの腸内環境における役割りを考察し、細菌感染を阻害する新規薬剤開発へ向けた基盤情報を得る。これまでの配列情報解析の結果から、腸内細菌科に属する幅広い細菌が、IVb型線毛システムを保有することを見出し、分子系統樹解析の結果、上記インタープレイに関与すると予想される分泌タンパク質が、配列相同性は低い(10%程度)ものの9種類の系統に分類されることを明らかにした。各系統に属する代表的な分泌タンパク質について、立体構造決定に取り組み、令和4年度までに、3種類の系統に属する分泌タンパク質の立体構造決定に成功し、いずれもβサンドウィッチ型の基本骨格を採ることを明らかにした。また、Vibrio cholerae由来IVb型線毛システムのマイナーピリンと分泌タンパク質との複合体結晶構造を決定し、ETECで確認された線毛と分泌タンパク質との相互作用がコレラ菌にも共通していることを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
令和4年度までに、ETEC、V. cholerae、Citrobacter rodentium、Rahnella aquatilisが保有するIVb型線毛システムの各分泌タンパク質の立体構造決定に成功し、現在、その他の菌種についても大腸菌を用いた分泌タンパク質の大量発現系構築作業を進めている。また、配列情報解析から、各分泌タンパク質について、線毛との相互作用領域(IVb型線毛分泌シグナルと呼称)を推定し、少なくともETECとV. choleraeについて、当該領域が分泌シグナルとして機能することを相互作用解析によって確認した。
令和5年度も、引き続き各系統の分泌タンパク質に関して、X線単結晶構造解析などによる立体構造決定を実施するほか、糖鎖および脂質との相互作用解析を行うことで宿主定着の際の標的分子探索を行う。また、IVb型線毛分泌シグナルに関して更なる情報を得るため、各菌種についてマイナーピリンと分泌タンパク質との相互作用解析を実施する。以上の結果を踏まえて、IVb型線毛システムの全容解明を試みる。
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Science Advances
巻: 8 ページ: eabo3013
10.1126/sciadv.abo3013
https://www.phs.osaka-u.ac.jp/homepage/b001/