研究課題
薬剤耐性菌問題が深刻化する中、細菌が産生する病原因子を標的とした薬剤開発が注目されている。特に、様々な病原因子の中でも、病原菌の宿主定着に関与する線毛は魅力的な創薬標的と考えられている。これまでの腸管毒素原性大腸菌(ETEC)の研究から、ETECが産生するIVb型に分類される線毛が腸管上皮への付着及びその後の定着において重要な役割を担い、また、線毛先端部において当該線毛依存的に分泌されるタンパク質と相互作用することが付着能発現に必須であることを明らかにした。本研究では、この新たに見出された“線毛と分泌タンパク質とのインタープレイ”がETECを含む腸内細菌のIVb型線毛システムに共通した特徴であることを実証し、また、構造生物学的手法により各細菌の分泌タンパク質の機能を解明することを目的とする。得られた情報からIVb型線毛システムの腸内環境における役割りを考察し、細菌感染を阻害する新規薬剤開発へ向けた基盤情報を得る。これまでの配列情報解析の結果から、腸内細菌科に属する幅広い細菌がIVb型線毛システムを保有することを見出し、分子系統樹解析の結果、上記インタープレイに関与すると予想される分泌タンパク質が、10系統に分類されることを明らかにした。また、いずれの分泌タンパク質もN末端部に線毛との結合に関わると予想されるシグナル配列を有していることが明らかになった。各系統に属する代表的な分泌タンパク質の立体構造解析を行い、現在までに3種類の系統の分泌タンパク質について立体構造を決定し、いずれのタンパク質も脂質膜結合能を有することを明らかにした。他の系統については、未だ立体構造が得られていないが、AlphaFold2による構造予測結果から、いずれも上記3系統の分泌タンパク質と同様にβサンドウィッチ型の基本骨格を採ることが示され、類似した機能を有する可能性が示唆された。
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