研究課題/領域番号 |
21K07025
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
島本 整 広島大学, 統合生命科学研究科(生), 教授 (90187443)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | レトロン / msDNA / コレラ菌 / 病原性 / ビブリオ属 / バイオフィルム |
研究実績の概要 |
細菌逆転写酵素は、msDNAと呼ばれるRNA-DNA複合体の合成を行っている。逆転写酵素遺伝子は、ゲノム上でmsDNAをコードする領域とともにレトロンと呼ばれるオペロンを形成しており、一種の可動性遺伝因子であると考えられている。コレラ菌の場合、逆転写酵素欠損株の解析からレトロンが病原性発現調節を行っている可能性が示唆されている。 病原細菌由来のmsDNAは、DNAの一部が安定な二本鎖構造となっており、デコイDNAのように転写制御因子と結合することによって他の遺伝子の発現制御を行っている可能性を考えている。msDNAによる遺伝子発現調節が行われるためには、msDNAの発現量すなわちレトロンの発現量が変化する必要がある。そこで、レトロンの発現量を簡便に測定することのできるコレラ菌のレポーター株(レトロンのプロモーター下にgusAを挿入した株)を作製し、さまざまな培養条件でGusA活性の測定を行った。その結果、グルコース培地を基準として微好気条件で胆汁を加えた場合に、基準条件(好気、グルコース)と比較して3倍以上活性が上昇することが明らかになった。 コレラ菌のレトロン-Vc95の場合、ret遺伝子の下流に2つの機能未知のORF(orf540、orf205)が存在している。これまでに、酵母Two-hybrid法によってORF540と相互作用する候補の1つとして、嫌気条件での遺伝子発現調節に関与するsensor kinaseであるArcBが見つかっている。ArcBのresponse regulatorであるArcAについては、コレラ菌で欠損変異株の解析から病原性因子の発現制御に関与していることが明らかにされている。そこで、あらたにコレラ菌のarcAとarcBの欠損変異株を作製した。今後、詳細な解析を進める。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでの解析でコレラ菌のレトロンの発現誘導条件をある程度明らかにすることができた。しかし、現段階ではmsDNAと病原性の発現調節との関連性は不明であるため、引き続き解析を進める。 一方、逆転写酵素遺伝子(ret)の下流に存在するorf540との関係が示唆されているArcBは、酸素の有無を検知して遺伝子の発現調節に関与するsensor kinaseである。今回、コレラ菌において、好気条件、嫌気条件、微好気条件でのレトロンや他の病原因子の発現状況を調べ、病原性に関与するバイオフィルムの形成が活性化される条件を明らかにすることができた。また、ArcBとそのresponse regulatorであるArcAの欠失変異株を複数のコレラ菌株で作製し、バイオフィルム形成などの病原因子への影響を解析した。 当初予定されていた計画が進まなかった点があった一方で、予定していなかった新たな視点からの病原性とレトロンとの関係を明らかにする可能性が示唆されたことから、「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
コレラ菌のmsDNAと病原性発現調節との関係を調べるためには、msDNAに結合する転写制御因子を同定する必要がある。今後は直接msDNAに結合するタンパク質を検出する方法を試みると同時に、msDNAの配列より結合可能な転写制御因子を推測する方法も試みる。 病原因子の1つであるバイオフィルムの形成は、細菌の密度を感知するquorum sensingが重要な役割を果たしていることが知られている。コレラ菌のquorum sensingを含めたその他の病原因子とレトロンの関係について、msDNAのみならずret遺伝子下流の2つのORF(orf540、orf205)との関係についても調べる必要がある。そのため、orf540とorf205についても欠失変異株を作製し、解析を進める。特に、ORF540とArcBとの関係については、注目して解析する必要がある。ArcAB二成分制御系は、酸素の存在、非存在下での遺伝子のスィッチングに関係している重要なグローバルレギュレーターである。コレラ菌が腸管内の酸素条件を検知して病原因子の発現状況をコントロールするために役割を果たしている可能性があるため、注目して解析を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当該年度に使用実験室の改装工事があり、実験室を使用できない期間や移転作業などがあったため、研究が予定よりも遅れてしまった。次年度は予定どおり進めることが可能である。 2022年度は、消耗品(培地、酵素、オリゴヌクレオチド、その他試薬、プラスチック器具)、人件費(研究員雇用費)、その他(DNA塩基配列委託解析、論文投稿料)などに助成金を使用する予定である。
|