研究課題/領域番号 |
21K07031
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研究機関 | 順天堂大学 |
研究代表者 |
多田 達哉 順天堂大学, 医学部, 准教授 (00624644)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | エリザベスキンジア属菌 / カルバペネム耐性 / カルバペネマーゼ |
研究実績の概要 |
エリザベスキンジア属菌はフラボバクテリア綱フラボバクテリウム目フラボバクテリウム科に属するグラム陰性桿菌で自然界に広く分布し、日和見感染症を引き起こす。 エリザベスキンジア属菌は染色体に3つの内在性β-ラクタマーゼblaB, blaCMEおよびblaGOBを保有する。その内、blaGOB及びblaBはカルバペネムを分解するカルバペネマーゼをコードする遺伝子として、blaCMEは基質拡張型β-ラクタマーゼ(ESBL)をコードする遺伝子であることが分かっている。これまでの解析から、2019年にネパールで分離されたエリザベスキンジア・アノフェリスは治療に有効な薬剤に対して最小発育阻止濃度(MIC)>64 ug/mlを示す高度汎薬剤耐性株であった。中でも、カルバペネム系薬、アミノグリコシド系薬およびコリスチン系薬に対するMICはすべて>512 ug/mlと超高度耐性を示した。 本年度はネパールで分離されたカルバペネム高度耐性を示すエリザベスキンジア・アノフェリスからblaGOB、blaB及びblaCMEを用いてリコンビナントプロテインを作製し、中等度カルバペネム耐性を示す標準株のそれらと酵素活性を比較した。その結果、ネパール由来のGOBで有意なカルバペネム分解活性の上昇が認められた。両株におけるGOBアミノ酸配列の比較から、ネパール株由来のものはGOBの123番目のアミノ酸がグルタミン酸からアラニンに、133番目のアミノ酸がリジンからアスパラギンに変異していることが分かっている。これらの結果から、この2つのアミノ酸変異がネパール由来株の高いカルバペネム分解活性に影響を及ぼしている可能性が示唆された。さらに、ESBLとして知られているCMEにおいてもカルバペネムを効率よく分解することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度までにネパールで分離された汎薬剤耐性エリザベスキンジア・アノフェリスを用いて高度アミノグリコシド耐性寄与する原因遺伝子及び高度カルバペネム耐性に寄与する遺伝子変異を明らかにすることができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後はネパール由来のGOBで認められた特異的な2つのアミノ酸変異(123番目のアミノ酸がグルタミン酸からアラニン及び133番目のアミノ酸がリジンからアスパラギン)の内、どちらが強くカルバペネム分解活性に影響しているのかを明らかにするため、標準株のGOBをベースに1つづつ変異を導入したリコンビナントGOBと2つを変異させたリコンビナントGOBを作製し、カルバペネムに対する酵素活性がどのように変化するのかを明らかにする。さらに、エリゼべスキンジア属菌(エリザベスキンジア・アノフェリス及びエリザベスキンジア・メニンゴゼプティカ)持つ高いカイコ病原性に関して、それらの病原因子を特定するために、クローニング法を用いて大腸菌ベースのDNAライブラリーを作製し、カイコを用いた感染実験を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究室の引っ越しのため、新しい試薬の購入ができなかった。研究自体はプライマーの購入の身で円滑に進めることができた。今後は病原因子にフォーカスし、クローニングによるDNAライブラリーを作製し、カイコ感染モデルを用いて病原性に関与する遺伝子を特定する。カイコ毒性が認められた大腸菌株はマウス感染実験モデルを用いることにより、哺乳類に対する病原性を解析する。研究協力者(栃木県保健環境センター 舩渡川圭次主任研究員)の協力のもと、エリザベスキンジア属菌の破壊株をマウスに腹腔内投与する敗血症マウスモデルを用いて病原性の比較を行う。エリザベスキンジア属菌感染症に有効な抗菌配合剤の検討も実施する。エリザベスキンジア属の最小発育阻止濃度(MIC)を0.1μg/mlに抑えるため、種々の薬剤の組合せを検討し、その相乗効果を明らかにする。
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