本研究では、ウエルシュ菌感染による敗血症性ショック誘導メカニズムを明らかにすることを目的として、ウエルシュ菌感染に対するToll様受容体4 (TLR4)の役割の解明、DNAマイクロアレイを用いた網羅的なα毒素の作用機構の解明、α毒素によるTLR4活性化メカニズムの解明、ウエルシュ菌感染に対するTLR4阻害剤の治療効果などについて検討した。ウエルシュ菌感染に対するTLR4の役割の解明では、C3H/HeNマウス (野生型TLR4)やC3H/HeJマウス (機能欠損の変異型TLR4)にウエルシュ菌を筋肉内投与し、マウスの生存率、炎症性サイトカインの産生量、ガス壊疽の進行度を比較したところ、ウエルシュ菌感染に対して、TLR4が宿主を保護することがわかった。DNAマイクロアレイを用いた検討では、C3H/HeNマウスやC3H/HeJマウスに野生型のウエルシュ菌、または、α毒素遺伝子を遺伝子操作で欠損したα毒素欠損株を感染させ、感染部位での宿主の遺伝子発現をDNAマイクロアレイにより網羅的に解析した。その結果、ウエルシュ菌の感染によって、宿主では炎症関連遺伝子や、毛細血管の保護や再生に関与する遺伝子の発現が増加することが判明した。また、α毒素欠損株と比較して、野生株に感染した宿主では、好気的なエネルギー産生機構に関与する遺伝子群の発現が高いことが判明した。α毒素によるTLR4活性化メカニズムの解明では、ヒト臍帯静脈内皮細胞 (HUVECs)をθ毒素及びα毒素で共処理すると、様々なサイトカインの産生が増加し、これらの毒素が協調的に作用してTLR4を活性化することが判明した。一方、ウエルシュ菌感染に対するTLR4阻害剤の効果を検討すると、一般的なTLR4阻害剤 (TAK-242やTLR4-IN-C34)は、θ毒素やα毒素によるTLR4を活性化を抑制せず、治療効果は認められなかった。
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