研究課題
劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)は、患者の約30-50%が死亡する極めて致死率の高い全身性感染症である。この感染症を引き起こす主な病原体はA群、B群、G群レンサ球菌である。その中でもG群レンサ球菌によるSTSSは、日本において、その症例数が10年前と比較して10倍以上に増加していた。しかしながら、STSS患者から分離されたG群レンサ球菌について世界を含めてほとんど研究されていない。そこで、本研究では、まず、劇症型溶血性レンサ球菌感染症患者分離株(STSS株)と咽頭炎患者分離株のゲノムの比較を行った。ゲノム上の配列について違いを見出すため、STSS患者分離株の中から、すでに見出した発現の上昇に関与することが分かている2つの遺伝子に変異がなく、病原遺伝子であるsagA遺伝子の発現が上昇していた株とコントロールとして咽頭炎患者分離株を選び、ゲノムDNAを抽出した。次世代シークエンスにより全ゲノムを読み、系統的に近いSTSS患者分離株と咽頭炎患者分離株のデータを用い、塩基多型解析を行った。発STSS株においてsagA遺伝子の発現が上昇していた株でのみ変異が見られる遺伝子で発現制御にかかわる遺伝子を抽出し、原因遺伝子の候補とした。STSS患者分離株で変異のあった遺伝子が、病原遺伝子の発現の上昇に影響を与えているか確かめるため、STSS患者分離株に咽頭炎患者分離株のintactの遺伝子を持つプラスミドを導入した。導入した株からRNAを抽出し、RT-PCRによりsagA遺伝子の発現量を定量した。STSS患者分離株にintactの遺伝子を導入し、sagA遺伝子の発現が咽頭炎患者分離と同じレベルになった遺伝子を選択し、sagA遺伝子の発現を上昇させる原因遺伝子であることが考えられた。
2: おおむね順調に進展している
当初の研究の5つの段階のうち、2番目の途中まで進めることができた。
当初の研究計画通り、変異株を作製し、変異の頻度をSTSS株と咽頭炎分離株で解析する予定である。その後、動物実験を行い、in vivoにおける病原性の評価を行う。この変異により、どのような遺伝子の発現が影響を受けているか、RNA-seqにより、調べる予定である。
ゲノムの比較を行う際の費用を安くすることができたため、予算が余ることとなった。来年度は、動物実験等に充てて使用したいと考えている。
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Int J Med Microbiol
巻: 311 ページ: 151496
10.1016/j.ijmm.2021.151496