現行の不活化インフルエンザワクチンを接種すると、抗原性変化が起きやすいHA蛋白質のヘッド領域を認識する抗体が主に誘導される。そのため、流行株の抗原性がワクチン株の抗原性と一致しない場合、ワクチンの有効性が著しく低下し、予防効果が著しく低下することがある。この問題を解決するため、抗原性変化が起こりにくい領域、つまり“異なる亜型のHA蛋白質の間で保存された領域”を免疫抗原として用いるワクチン、いわゆる次世代型インフルエンザワクチンの研究が世界的に進められている。本研究では、全ての亜型のA型インフルエンザウイルスのHA蛋白質を認識するヒトモノクローナル抗体の性状解析を行い、この抗体が認識する領域が新規抗原性保存領域であることを証明することを目指す。 本年度は、抗体が認識するエピトープを明らかにするために、クライオ電子顕微鏡解析を実施した。昨年度に準備したFab型抗体と三量体組換えHA蛋白質を1.2対1の割合で混合し、HA蛋白質/Fab複合体を形成したフラクションのみをゲルろ過により精製した。精製した複合体をクライオ電子顕微鏡で撮影し、計260万個の複合体像を得た。得られた画像を元に3次元構造を構築した。構築した立体構造は、抗体のエピトープ解析には十分と考えられる2.44オングストロームの解像度を示した。本構造解析により、本研究対象であるヒトモノクローナル抗体が、新規な抗原性保存領域を認識していることを直接的に示すことに成功した。
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