研究課題
本研究の当初の計画とは異なり、5’UTRに相互作用しSARS-CoV-2の増殖に影響を与えるマイクロRNAは見つけられなかったが、標的配列を探索するためのsiRNAスクリーニングにより、5’UTRに存在する8つのステムループ(SL)構造のうちSL1、SL2、SL3、SL5を標的部位とする3つのsiRNAにウイルス増殖抑制効果があることを見出した。またそれらのsiRNAは、その標的部位が保存されているさまざまなSARS-CoV-2流行株および同じサルベコウイルス属のSARS-CoVに対して、ウイルス増殖を1/10以下に抑制する効果が認められた。そこでsiRNAが標的とするSLの高次構造の重要性に着目し、RNAよりも強い結合親和性を持つLNAを用いた一本鎖アンチセンス核酸を用いて、構造形成阻害によるウイルス複製・増殖阻害が生じるかを検討したが、阻害効果は認められなかった。以上の結果より、siRNAによる阻害効果はSL構造形成阻害ではなく、ウイルスゲノムRNAに対するRNA分解が主な作用機序であることが明らかとなった。さらに各siRNA存在化でSARS-CoV-2を継代すると耐性変異株が得られたが、いずれも各標的部位に1塩基置換が生じていた。そこで、CPER法により逆遺伝学的にそれぞれの耐性変異株を作製したところ、すべてウイルス粒子産生効率が低下していた。データベースに公開されているウイルスゲノムの5’UTR領域の配列を解析すると今回得られた耐性変異がわずかに検出されたが、その変異は維持されていなかったため、ウイルス増殖において優位な変異ではないことが示唆された。最後に、ウイルス感染後にsiRNAを導入しても同様のウイルス増殖抑制効果が認められたことから、治療への応用を想定し、現在SARS-CoV-2感染マウスモデルを用いて、3つのsiRNAによるin vivoでの治療効果を見るために準備を進めている。
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Microbiol Spectr.
巻: 12 ページ: e0365523
10.1128/spectrum.03655-23.