研究課題
B型肝炎ウイルス(HBV)は、ヒト肝細胞に感染し、慢性肝炎、肝硬変、肝細胞癌などを含む肝疾患を引き起こすが、現時点において、根本的な治療法は確立されておらず、HBVを体内から完全に排除することは不可能とされている。本研究では、申請者が世界に先駆けて見出した、「HBVのXタンパク質 (HBx)の新規宿主結合因子Peroxiredoxin 1 (Prdx1)を介したHBV RNAの新規分解機構」のより詳細なメカニズムを明らかにすることにより、HBV関連疾患に対する新たな治療戦略シーズへの可能性を提示することを目的としている。申請者は以前、Prdx1の発現を誘導する転写因子Nrf2の過剰発現がHBV増殖を有意に抑制することを見出している。そこで、令和3年度は、HBV感染によるNrf2-Prdx1経路の活性化の誘導機構について詳細に検討し、以下の成果を得た。(1) HBxタンパク質はNrf2タンパク質の安定化および核への移行を促進させることが明らかとなった。(2) 酸化ストレスセンサーであるKeap1はdouble-glycine repeat (DGR)ドメインを介してHBxと相互作用することが明らかとなった。(3) Nrf2はHBV core promoterに結合し、core promoter活性を阻害することが明らかとなった。以上のことから、HBV感染細胞において、Keap1はHBxと相互作用することにより、Nrf2の活性化を誘導し、活性化したNrf2はHBV core promoter活性を阻害することでHBV増殖を抑制すると考えられた。これらの成果は、本研究の目的達成に向けた重要な知見であると考える。
2: おおむね順調に進展している
令和3年度の研究により、HBV感染によるNrf2の活性化およびNrf2によるHBVの増殖抑制の分子機構が明らかになった。この結果は、HBV感染に対する宿主の防御機構の全容解明に向け、大きく貢献できるものと考える。これらの成果は当初の計画通りであり、評価できると思われる。今後さらに詳細なメカニズムの解明を目指す。
HBV感染によりNrf2が活性化することから、今後以下の点について研究を進める。(1) HBV感染細胞あるいはHBx発現細胞において、Nrf2のユビキチン化の変化を調べる。(2) HBV感染によるNrf2活性化が、活性酸素種(ROS)依存性または非依存性かを抗酸化剤を用いて検討する。(3) HBV感染によるNrf2の活性化は、Prdx1の遺伝子発現を誘導するかどうかについて解析する。(4) Nrf2活性化剤をHBV感染細胞へ添加し、Prdx1の発現誘導、またHBV 増殖に及ぼす影響を調べる。
理由:令和3年度に参加した学会は全てオンライン参加であったため、申請書に計上した額より経費を節約できたため。使用計画:HBV感染実験の諸経費に使用する予定である。
すべて 2022 2021 その他
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (13件) (うち国際学会 8件) 備考 (2件)
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https://www.med.kobe-u.ac.jp/infcon/posts/news59.html
https://www.med.kobe-u.ac.jp/infcon/posts/news58.html