生体成分肺サーファクタント由来粘膜アジュバントSF10を用いた長期免疫記憶誘導が可能な新型コロナワクチン (S1) の開発研究を行った。初年度はワクチン抗原として十分抗原性のある新型コロナウイルスリコンビナントS1タンパク質の探索を行った。二年目は強力なアジュバントであるAS03混合S1筋注を比較対照として、SF10混合S1の経口または経気道接種が、高い粘膜免疫誘導効果を示すことを確認した。特に経気道接種がウイルスの侵入門戸である気道粘膜における細胞性免疫も強力に誘導することが分かった。最終年度は二年目までで得られた知見をもとに、最終免疫一年後に免疫が持続しているかを確認した。SF10混合S1を経気道接種したマウスを一年間飼育し、粘膜局所である肺と全身免疫を担う脾臓の抗S1抗体産生細胞を検出した。その結果、最終免疫一年後でも肺と脾臓、共にIgGおよびIgA抗体産生細胞が検出された。また同じマウスの脾臓におけるS1抗原応答性サイトカイン産生細胞を検出したところ、細胞性免疫に関与するIFN-γ、液性免疫に関与するIL-4、粘膜組織で最も重要な役割を果たすIgAの産生と粘膜への分泌に関与するIL-17A、そして免疫抑制に働くIL-10の誘導維持が確認された。IL-17AはIgA誘導という点においては生体にポジティブに働くが、好中球の遊走等炎症を惹起する問題点も指摘されている。しかしながら、過剰な免疫誘導にブレーキをかけるIL-10が、IL-17Aの過剰炎症を抑制するとも言われており、このことからSF10混合S1経気道接種は有効性と安全性の高いワクチンであると推測される。以上の研究により肺サーファクタント由来アジュバントの新型コロナワクチンにおける優位性が示された。今後実用化に向けた開発研究が加速することが期待される。
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