研究課題/領域番号 |
21K07042
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
野間口 雅子 徳島大学, 大学院医歯薬学研究部(医学域), 教授 (80452647)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | HIV-1 / 遺伝子発現 / 同義置換 / スプライシング |
研究実績の概要 |
HIV-1は変異・適応能の高いウイルスの代表格である。HIV-1の変異や適応過程を知ることは効果的な複製制御に繋がると期待される。研究代表者は、HIV-1シークエンスデータベースから配列多様性を探ることにより、これまでにHIV-1 vprコード領域内のスプライシングアクセプター(SA)3近傍で複製能を変動させる同義1塩基置換を種々見出した。本研究では、HIV-1複製能に関わる塩基配列領域をさらに同定するため、SA3上流の塩基配列の多様性に基づき変異体を作製した。新たに作製した変異体9個のうち、2変異体では、ヒトリンパ球系細胞株の増殖能が親株よりも著しく低下した。SA3は、HIV-1 tat mRNA産生に重要なスプライシングサイトであり、周辺にはスプライシングエンハンサー/サイレンサーが同定されている。今回同定した複製能を変動させる1塩基置換の多くは、これら既知のスプライシング関連領域とは異なるサイトに存在していた。これらの変異が複製能を変動させる機構を解析することにより、HIV-1複製に関与する新たな領域の同定に繋げる。また、Vpr配列ではCTL逃避変異体が報告されているが、これらの変異がウイルス複製能自体に及ぼす影響はあまり解析されていない。これまでに報告のあるCTL逃避変異体を作製し増殖能を調べた結果、親株よりも増殖能を向上させるものと低下させるものを見出した。さらに、これらの変異周辺では、アミノ酸配列多様性が存在する残基が認められ、HIV-1適応に関与している可能性が示唆された。研究代表者のこれまでの経験を活かし、このような多様性を持つ領域をウイルス学的に解析していくことで、HIV-1適応に関わる新たな領域を同定できると期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、SA3周辺から領域を拡大し、HIV-1配列多様性に関する情報から、同義1塩基置換を抽出した。これらの変異を有する1塩基置換体を作製し、HIV-1の複製能を変動させるほどの意義のある変異を種々新たに同定することができた。vprコード領域の塩基配列は、SA3を介してtat mRNA産生に、また、vif mRNAとvpr mRNA産生量は逆相関することから、vif mRNA産生にも影響を及ぼす可能性がある。新たに見出した変異について、Vif発現量の変化を調べたが大きな変動は認められなかった。変異がHIV-1遺伝子発現に及ぼす影響については解析中である。 当初の計画に加えて、Vpr領域内で認められる既知のCTL逃避変異に着目した。なぜなら、HIV-1のある種の適応に関与しているはずであるが、複製能に及ぼす影響が未解明だからである。その結果、複製能を変動させる非同義置換を現時点までに2種見出した。興味深いことに、Vpr領域内の1アミノ酸変異によりリンパ球系細胞株での増殖能が促進されることが分かった。リンパ球系細胞株ではVpr欠損変異体でもあまり増殖能は変動しないため、今回見出した増殖促進が、Vprのアミノ酸変異によるのか、コドンの変化つまり塩基配列の変異によるのかを明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
Vprコード領域内において、SA3周辺で、既知のスプライシング関連領域とは異なる複製能を変動させる1塩基置換を見出すことができた。HIV-1 RNA構造解析によれば、SA3周辺にはいくつかのステムループ構造が連続して存在することが報告されている。研究代表者が同定したいくつかの1塩基置換もこれらのステムループ構造内に認められた。研究代表者は、これまでにSA1近傍の配列で形成されるステムループ構造の安定性が、SA1周辺の塩基配列と共に、vif mRNA産生量の決定に寄与すること、具体的にはステムループ構造の安定性が増すとvif mRNA産生量が低下すること、を報告している。従って、SA3周辺のステムループ構造とSA3スプライシング効率やtat mRNA産生との関連について調べ、考察していく必要がある。また、複製能を変動させるVpr領域内の1アミノ酸変異の同定を皮切りに、複製に関与する新たな領域の同定を目指すと共に、vprコード領域の塩基配列の意義の解明にも繋げたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
3月に納品され、支払いが4月になったため。
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