Saffold virus (SAFV) は、主として小児において、上気道炎・胃腸炎・手足口病様疾患を引き起こす。まれにではあるが、無菌性髄膜炎・脳炎・膵炎などの検体からも検出されることがあり、中枢神経や膵臓に重篤な疾患を引き起こすことが懸念される。しかし、ウイルスに対する感受性を決定する重要な宿主因子である感染受容体が同定されておらず、SAFVの組織親和性や病原性発現の分子機構は不明のままである。本研究は、CRISPR/Cas9システムを用いたスクリーニングによって得られたSAFVの感染、増殖に関わる遺伝子の機能解析から感染受容体を同定し、最終的にSAFVの病原性発現の分子機構を明らかにすることを目的とする。 これまでに、へパラン硫酸(HS)を含む硫酸化GAGがSAFVの感染に重要であることを見出した。しかし、HS欠失細胞ではSAFVの感染・増殖を完全に阻害できず、HS以外にもSAFVの受容体となる宿主因子の存在が示唆された。本申請では、HS以外のSAFVの吸着・侵入に関わる宿主因子を同定するために、HS欠失HeLa細胞株を用いたCRISPRスクリーニングを行った。その結果得られた候補遺伝子群をノックアウト(KO)したHeLaおよびHS欠失HeLa細胞と、強制発現させたSAFV非感受性であるBHK-21細胞で、ウイルス感染と増殖を評価した。さらに、SAFVと受容体候補分子の結合について、細胞表面での結合をattachment assayで、直接結合をpulldown assayで確認した。これらの結果から、HS以外のSAFV受容体を同定した。また、HSがある細胞でこの受容体をKOしてもSAFVに対する感受性が低下するにとどまるが、HS欠失細胞でKOすると感受性が消失した。このことから、SAFVの感染には、HS依存経路とHS非依存経路が存在することが示唆された。
|