研究課題/領域番号 |
21K07046
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
岩堀 聡子 藤田医科大学, 医学部, 講師 (80416164)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヒトサイトメガロウイルス / UL97キナーゼ / リン酸化 / サイクリン依存性キナーゼ / DNAJA1 / HSP40 / 単純ヘルペスウイルス1型 / キナーゼ基質 |
研究実績の概要 |
ヒトサイトガロウイルス(HCMV)のコードするUL97キナーゼは宿主のコードするサイクリン依存性キナーゼ(CDK)の機能ホモログであり、ウイルスCDKとも呼ぶ。UL97は抗ウイルス薬ガンシクロビルをリン酸化し、活性化することに加えて、2021年に米国で承認されたマリバビルの標的であるなどHCMV感染制御において重要な因子である。そこで申請者は、(i)UL97の新規キナーゼ基質の同定およびそのリン酸化の意義の解明、そして(ii)キナーゼ活性調節蛋白質の同定および活性制御機構の解明を目指している。令和3年度までにUL97の相互作用因子の一つDNAJA1(HSP40相同体)をUL97の新規基質として同定した。令和4年度は、DNAJA1遺伝子をCRISPR/Cas9システムによりゲノム編集した線維芽細胞(hTERT-BJ1)を単クローン化し、DNAJA1 欠損細胞を樹立した。DNAJA1 欠損細胞においてもHCMVは増殖したが、コントロール細胞に比べて約3倍程度ウイルス量が減少した。また、HCMVと同じくヒトヘルペスウイルスである単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)感染においてもDNAJA1はリン酸化され、そしてDNAJA1の不在はHSV-1の増殖を遅延することを見出した。以上より、HCMVおよびHSV-1感染においてDNAJA1は正の制御因子であることが示された。異なる2つのウイルスにおいて、感染に伴うDNAJA1のリン酸化が誘導されていることから、DNAJA1のリン酸化がウイルス感染において重要である可能性が示唆される。また、DNAJA1のリン酸化は通常の細胞周期においても誘導されており、その責任キナーゼはCDKの可能性が高いことを示すデータを得た。DNAJA1のリン酸化の意義を解明することは、ウイルス学、そして細胞周期・癌分野の理解にも貢献することが期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和4年度は、DNAJA1のリン酸化のウイルス感染における意義を解明することを目的として、非リン酸化型DNAJA1を用いたDNAJA1欠損細胞の再構築を行い、ウイルス増殖にどのような影響を及ぼすのか検討した。しかしながら、DNAJA1発現プロモーターとしてEF1alphaプロモーターを選択したところ、その発現量が線維芽細胞(HCMV研究に汎用される感染許容細胞)において非常に低いことがわかった。現在、PGKプロモーターとCMVプロモーターの二つを用いて実験を行っている。 HSP40相同体はHSP70の補助因子として機能する。UL97によるDNAJA1のリン酸化部位の一つがHSP70との相互作用に関わる領域に位置することから、リン酸化がDNAJA1とHSP70の相互作用に影響を及ぼす可能性が考えられた。しかしながら、共免疫沈降法により解析したところ、野生型と非リン酸化型DNAJA1はいずれもHSP70と相互作用し、顕著な差は認められなかった。
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今後の研究の推進方策 |
HCMVは広い細胞種で増殖可能であり、HCMV研究に汎用される線維芽細胞以外の細胞も用いることで新たな知見が得られる可能性がある。令和4年度は、DNAJA1欠損細胞を用いた実験は線維芽細胞のみで行っており、今後はEpithelial RPE-1A細胞を用いて同様にゲノム編集を行い、DNAJA1欠損細胞を樹立し、DNAJA1がHCMVの増殖にどのように関与しているのかを解析する。 また、DNAJA1のリン酸化の意義に関して、(i)DNAJA1とUL97との相互作用に与える影響、(ii)UL97のキナーゼ活性に与える影響、(iii)野生型あるいは非リン酸化型DNAJA1を用いて再構築した細胞におけるHCMVの増殖特性、について詳細に解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度分として論文掲載費を予定した。しかしながら、協力研究者Robert F. Kalejta博士(University of Wisconsin-Madison)が共同で執筆した論文の責任著者となり、論文掲載費を支払った。そのため、次年度使用分が生じることになった。次年度は常用している線維芽細胞以外の細胞を使用予定であり、細胞培養関連の消耗品(培地など)として計上する。
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