理論計算・X線結晶構造解析・有機合成・タンパク質レベルの生化学実験を融合させた複合的な研究を遂行して、SARS-Cov-2の3CLプロテアーゼならびにPLプロテアーゼの双方について、阻害活性を有する薬物を同定できた。阻害候補薬物の探索は、東京大学情報基盤センターのスーパーコンピューター(Oakbridge-CX)を用いて行った。標的タンパク質に対するドッキング計算を、AutoDock Vinaプログラムで実行し、結合スコアー上位の化合物を選び出した。次に、ドッキング計算で予測された結合ポーズをもとに、独自開発のOrientationプログラムで分子力場計算を実行し、結合スコアーを高い精度で算出した。結合スコアーを指針に、標的タンパク質に対して効果があると期待される薬物を選定し購入した。 SARS-CoV-2の3CLプロテーゼならびにPLプロテアーゼを、組み換えタンパク質として発現精製した。精製した酵素タンパク質を用いて、3CLプロテーゼならびにPLプロテアーゼに対する購入薬物の阻害活性を測定した。測定の結果、3CLプロテーゼに対しては、5種の化合物に明確な阻害効果が認められた。PLプロテアーゼに対しては、4種類の化合物で阻害効果が認められた。3種類の化合物については、3CLプロテーゼおよびPLプロテアーゼの両者に対して阻害活性を示した。 3CLプロテーゼに対して認可薬が上市されたことを受けて、阻害薬のないPLプロテアーゼに対する薬物開発に注力して研究を進めた。PLプロテアーゼと同定した活性化合物の共結晶構造解析を進め、分解能2.2ÅでX線回折像が得られた。結晶構造に基づき、計算機を活用して、活性を向上させるための薬物設計を進めた。
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